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10/04/2007

○「老人と宇宙(そら)/ジョン・スコルジー」 - 今日の一冊

老人と宇宙 異星人との戦争をミクロな視点から描いた軍事SF。一般的に「宇宙の戦士」が源流であるとされるこのジャンル。本書もまた、その流れを継いだ作品の一つであると言えるだろう。ただし、主な登場人物が老人であることを除いて。

「七十五歳の誕生日。わたしは妻の墓参りをして、それから軍隊にはいった」

冒頭から真っ先に目を奪うのは「七十五歳以上しか入隊できない軍隊」という興味深い設定だ。腰の曲がった老人がライフルを抱え、えっちらおっちらと荒野を歩み、戦争とはなんたるかを長々と講釈垂れる光景を思わず頭に浮かべてしまうが、そんな退屈な物語ではない。

七十五歳を迎えた彼ら(彼女ら)は軍隊に入隊することで、これまでの人生を捨て、新しい人生を歩んでいくことになる。今まで出会った人達に別れを告げて…もはや彼らには別れを告げる人さえも居ない。物語は、人生に失うものや未練がなくなった老人ジョン・ペリーのサクセスストーリーを描いている。

主人公が老人である設定を一発ネタで終わらせず、シナリオのテーマに結びつけ、見事に軍事SFものとの差別化に成功。特に、戦争に対して問題提起を行っているシーンにおいて感じる、達観した老人としての判断や決断、そして諦めや悟りは、宇宙の戦士と対比してみると面白い。

血気盛んな20台の主張と、酸いも甘いもを味わった後の20台のシニカルで現代的な物事の捉え方。リコが21世紀を迎えれば、こうなっているのだろうかとしみじみ考えてしまった。21世紀版「宇宙の戦士」と評されているのも言い得て妙だ。

老人と宇宙は三部構成となり、第一部で入隊と新しい友人との絆、第二部で異性人との戦い、第三部で恋愛へと展開していく。それぞれがバランスよく繋がっており、青春あり・戦争あり・恋愛ありと重箱的に楽しませるのだ。様々な個性豊かなエイリアンが登場するが、大抵は未知の遭遇で、彼らの生態系や行動原理についてミステリ的な要素もあり、ついつい先へと読み進めてしまう。

ただ、SF的な考証不足、掘り下げが浅い点がやや目に付いた。老人が一流の兵士へ○○するところや登場するSFガジェットはテクノロジーの言葉だけで片付けられ、原理について全く解説がなく、SFというよりファンタジー色が強い。また、登場するエイリアン(コンスー族、等)にしても価値観や考え方が不鮮明で説明不足に感じてしまう。

メッセージ性やSFとしての感動には欠けるものの、気楽に読める娯楽作に仕上がっている。最後のシーンでは思わずホロリとさせられ、読後は非常に心地良い感覚に包まれた。これが著者にとって処女作というのだから驚きである。老人と宇宙の続編は既に本国で刊行されていて、翻訳が待ち遠しい限り。

ハヤカワちゃん頑張って。