« Lux - 朱に交われば赤くなる | トップページ | GameTapでフリーゲーム »

01/02/2009

Far Cry 2 - スローライフスローフード

 RPG漬けだった昨今。久しぶりにFar Cry 2を引っ張り出し、軽く遊んだりしていました。達成率が70%に達するところでようやくこのゲームの輪郭が浮かび上がってきた気がします。Act 1まではほんのチュートリアルに過ぎません。

  欠点はこれまでに挙げた通りで間違いありません。しかし、どうも私は根本的に求めるところを誤解していたようです。オープンエンド、派閥、ランダムクエストというキーワードを聞いて、Boiling PointやS.T.A.L.K.E.R.タイプだと想像、そして期待していましたが、ベクトルはそっちの方向に向いているゲームではありませんでした。というより、暗殺できない暗殺者ゲーの例からいって、UBIは私達が求めるオープンエンドゲームを作る能力に欠けていると言った方が適切かもしれません。

  とにかく彼らは意図的なのか、無意識的なのか、はたまたプロデューサーが無能なのか、もしくはテストプレイヤーが奇人変人揃いなのか分かりませんが、ことごとくゲーマーの嗜好&期待の逆を行います。その外しっぷりは尋常ではなく、鉄板と思われるところを全てスカす勢い。吉本新喜劇なら即舞台から下ろされてしまうレベルでしょう。

  しかも、ゲーム中で説明下手なのがそれに拍車を掛けます。他のゲームに比べて、どういう内容でどういう風に遊んで欲しいのかを伝える努力に乏しい。遊び方は自分で探せという近年稀に見る放任主義。故に本来意図しているスタイルが見えず、つかみどころのない印象に繋がってしまう。または、私のようにあらぬ誤解をしてしまうことになる。ここがFar Cry 2の評価を下げてしまう結果に至っているのではないかと考えます。



  Far Cry 2はBoiling PointやS.T.A.L.K.E.R.よりも、どちらかといえばCrytekのFar Cryに近いゲームと表現するのが正しいでしょうか。Far Cryをクリアしたプレイヤーの中で「もっと広いマップで自由に戦っていたい」という意見がありましたが、Far Cry 2はその要望に応えたゲームだと感じます。

  Far Cry 2にはメインミッションが用意されているものの、マップ内の移動や進行を縛らずにプレイヤーの好きなように進めることができます。武器はピストル、ロケラン、ライフル、火炎放射器と様々な種類が用意されていて、自分の使いたいものを使うことが可能。銃器は心地良いサウンドで銃撃感が優れている。敵のAIはアサルトプレイ、ステルスプレイ、どちらにも対応していて、ステルス一辺倒だったFar Cryのバランスよりも幅広いゲームプレイが行えるように調整されています。そして、天候や気候はリアルタイムに切り替わり、時間によってシチュエーションも様変わりする。

  つまり、Far Cry 2が意図しているのは「箱庭で自分の好きなように思う存分に狩りを楽しむ」ことではないかと考えます。このゲームでの敵は一般的なFPSでいうところの“障害”ではなく、狩りでいう“獲物”。Deer Hunterならば鹿に相当します。

  狩ることにメリットがないのが残念なところではありますが、自分でどうやって獲物を狩るかを試行錯誤できる自由がバラエティに富んだ作りになっているのは確かです。創作次第で色々な料理の仕方ができることでしょう。たとえばトラックを破壊する場合は巡回経路にドラム缶を用意しておいてドカンとか、待ち伏せてロケランで一気に爆破するとか、スナイパーライフルで運転手を殺害してから悠々とトラックを破壊するなど。マップを見ながら舌なめずりして計画を立てる時間がとても楽しく、計画通りに成功すれば快感を覚えます。

  ご褒美がダイアモンドだけではなく、他にもいくつか用意されていればもっと分かり易くコンセプトを訴えかけられ、多くのユーザーが楽しむことができたでしょう。マップを散策する楽しみもあれば、移動が作業感染みたことにならなったはず。

  ゲームの核を狩り一本に絞り、Boiling PointやS.T.A.L.K.E.R.のようなRPG的要素を排除し、システムを単純化しすぎたことがユーザー受けを悪くする方に働いたように思えます。Boiling PointやS.T.A.L.K.E.R.にはアイテムやお金という概念があったことで、敵を狩るメリットをユーザーが明確に見出しやすかった。敵を狩った先にご褒美が用意されていないと、人はやりがいを感じづらいものです。

  また、Far Cry 2はすべての銃を扱えるようになるのがAct 2に入ってからになり、いささかスロースターターすぎるきらいがあります。しかも、銃をアンロックするには武器商人のミッションをこなさなければ購入することができません。

  私がAct 2(達成率50%)に入った直後で11時間ですから、すべての銃を購入するにはそれ以上掛かるということです。他のFPSなら普通にクリアできる時間に値します。特に最近のFPSならば下手したら2本分に相当する時間かもしれません。チュートリアルが10時間オーバーというのはいくらなんでも長すぎます。それまでに投げ出してしまうユーザーも居ることでしょう。



  私は武器が出揃い、どういうゲームなのかを把握したことでようやく遊び方を理解してきた印象です。ゲームは一日一時間のごとく、狩りは一日一時間程度で遊ぶのがFar Cry 2を一番美味しく頂くコツではないでしょうか。ミッションはメインにしろ、サブにしろ似たり寄ったりで単調で作業的で不満ばかりが溜まっていく。とてもじゃないですが一気に何時間も熱中する気にはなりません。他のゲームの合間に遊ぶくらいでちょうど良い。

  気が向いたときにフラーッと狩りに出かけるようなまったり(じっくり)とした遊び方…それがFar Cry 2には合っているのではと思います。Deer HunterやHunting Unlimitedの獲物が人間に変わったバージョンと考えた方がいいのかもしれません。とにかくお話を先に進めて、次の展開を急ぐようなユーザーには向いていません。そういう意味でも人を選ぶゲームだと思います。

  Far Cry 2のスタイルは短期消費化が激しいと叫ばれる昨今には不向きな作りでしょう。1分で楽しめる笑い、5時間でクリアできるFPS、2時間ドカーンバカーンのハリウッド映画。ゲームにしろ、アニメにしろ、映画にしろ、お笑いにしろ、パッと遊べてパッと楽しめる分かり易いものが市場には溢れ、人々はそういうものに慣れてしまっている。何百時間も掛けてじっくり反芻しながら楽しむような余裕はどの分野からも失われつつあると個人的には感じます。その前に痺れを切らして諦めてしまう。

  もちろん、Far Cry 2の内容が薄く、引き伸ばされた感があるのは事実です。クリアするまでに50時間なんて実しやかに囁かれていますが、その50時間は他のFPSでいうところの5時間程度の内容に値する。同じことの繰り返しと作業で水増しされ、まるで50倍に薄めたカルピスのよう。

  しかし、一旦、Far Cry 2がどういうゲームでどういう遊び方ができるのかを分かるようになれば分量は多ければ多いほうが良いと感じられるようになります。今は気が向いたときに飲む、50倍に薄めたカルピスが美味しくて仕方ありません。

  Far Cry 2をプレイしている人でつまらない、面白くないと感じた人は一度放置することを勧めます。そして、他のゲームで遊んで下さい。忘れた頃にFar Cry 2の存在を思い出した方はもう一度再開してみて下さい。楽しみ方が分かってきたら儲け物です。それでも楽しみ方が理解できなかった方、放置したまま思い出すことすらなかった方は根本的に向いていなかったということでしょう。万人に受け入れられるような内容ではありませんし、仕方のないことだと思います。


現在の個人的雑感。クリックすると大きくなるよ