サイバーパンクを題材にした近未来FPS/RPG。Deus Ex、Deus Ex:Invisible Warの続編になるが、ストーリーは一作目のDeus Exの前日譚に相当し、オーグメンテーション(義体化技術)が話の中核となる。
今回の主人公はアダム・ジェンセン。義体技術を研究しているサリフインダストリーのセキュリティを担当していたが、ある日武装集団の襲撃に遭い、半殺しにされる。恋人のメーガンの助けによって死は免れたが肉体は半壊していた為、全身義体化で命を取り留めた。ジェンセンはサリフインダストリーの依頼を受けながら、テロの鎮圧や揉み消された事実を探っていく内に世界の陰謀に巻き込まれていくというストーリー。
Deus Exの特徴である”自由度”は今回も健在といっていい。アサルト/ステルスどちらでも攻めることが可能で、マップ内のルートも一本道ではない。銃撃で真っ向から戦うか、一人ずつ暗殺していくか、天井やダクトをを通ってスルーするか、どれを選ぶかはプレイヤー次第。エリアの規模はIWと同じくらいだが、ロード地獄のIWとは異なり、こちらは一つのエリア内ではロードが発生せず、スムーズなプレイが可能となっている。
ただ、スケールが大きく立体的な作りだったDeus Exに比べると、本作はこじんまりとした印象は否定できない。クエストエリアと街エリアは地続きで、ストーリー的に戻れない状態を除いていつでも行き来できる。クエスト途中で弾丸が無くなったので武器屋で補充なんてこともできる。
一番初めのミッションでは会話の選択肢によって装備が変わってくる。アサルトプレイの場合はアサルトライフル、ステルスで遠距離戦の場合はトランキライザーガン、ステルスで近接戦の場合はスタンガンという風に自分のプレイスタイルに合わせた装備品が支給される。それ以降も選択肢によって条件が変わったり、サブクエストを引き受けるか否かも選択可能。
また、テロリストと交渉する場面でも選択肢で結末が変わる。テロリストを上手く説得して止めさせるか、それとも火に油を注いで人質を殺害させるかもジェンセン次第だ。交渉シーンは緊迫感があって面白いのだが、キャラクターの造形は最新ゲームらしい作りの癖にフェイシャルアニメーションが前時代的(IW以下じゃないか?)で顔の表情が固く、声と表情がいまいち合っておらず、会話シーンが非常にぎこちない。会話が多いだけにこれは致命的と言わざるを得ない。義体化技術が未発達で表情の研究が進んでいない為、サイボーグは表情が乏しく能面というのなら納得できるのだが、生身の人間も顔筋が死んでるから困る。身振り手振りが過剰なだけに余計に顔面死亡が目立つ。
例えば、暗殺時の首絞めアニメーションなら、焦って苦しそうにするとか、驚いた表情をするとか、いくらでも出来るはずだ。しかし、本作はまったく努力が見られず、首締られようと殴られようと”真顔”か”目をつむる”くらいである(苦しそうなアニメーションもあることにはあるが真顔パターンが多いために真顔が目立つ)。クールにもほどがある。2020年代にはサイレントチルドレン症候群が流行しているとか、そういう設定なのか。
現実的にそういう状態の場合、真顔が正しかったとしても、映像表現でそれはあり得ない。主役に斬られたら、切られ役は大仰に苦悶の表情を浮かべながらバッタリ倒れる、それは当然のことだ。これがスプリンターセルなら、口を食いしばって半目とか、アヘ顔ダブルピースくらいの芸当はする。FPSの癖にドヤ顔で客観視点の暗殺アニメーションをするくらいなら、そこはちゃんとやれ。まともなアニメーションすら出来もしない癖に中途半端なことするな。主観視点に徹しろ。余計なことして没入感を殺すな。
過去作のバイオモッド要素はすべてオーグメンテーションに吸収された。オーグメンテーションは21種類用意されており、エイム強化・防御強化・落下ダメ無効化・光学迷彩・インベントリスロット増加・ハッキング強化・レーダー強化・ジャンプ力・スピード強化・雑音低減・腕力強化・エネルギー強化などがある。
アクティブ系のものはエネルギーを必要とする。エネルギーやヘルスは自動回復の為、回復には困らない。回復アイテムはお馴染みのチョコバーやジュースなどがあるが、速攻で回復したい時に必要になるくらいで、過去作よりも必要性は大幅に下がっている。
エネルギーは暗殺時(なぜ首を締めるだけなのに必要なのか。サイボーグの癖に生身の人間よりもひ弱じゃないか)に一スロット必要になる為、序盤は暗殺の連発ができないようになっている。ただし、暗殺はボタン一つで確実に殺せる為、これぐらいじゃないとバランスが吊り合わないという判断だったのかもしれない。
大きくて重いオブジェクトを運べるようになる腕力強化は過去作に比べると使い勝手が良くなっている。今までのシリーズでは腕力強化はコストに見合わず、利用価値は低かったが、今回ようやく本来意図した使い方ができるようになったとみていいだろう。足場を作って壁を乗り越えたり、敵にレーザープリンターをぶつけて転倒させたり、大きな音を立てて引き寄せたり、入り口に自動販売機を置いて出入りできないようにしたり、色々と使い道があり楽しい。すべてのオブジェクトを動かせるわけではないが、触れるものやアイテムは黄色い輪郭線が表示されて知らせてくれる。
オーグメンテーションは経験値を獲得したり、Praxisアイテムを入手することでポイントを分り振れるようになっている。経験値はクエストをクリアするのはもちろんのこと、脇道や隠し部屋、ハッキングや敵を倒すことで手に入る為、敵は片っ端から倒した方がよく、コンピューターのパスワードを知っていたとしてもハッキングで解除した方がいい。ただし、敵をスルーすると殺害した時の経験値が手に入らないので、プレイの幅を制限しているような感じもする。
倒した敵は引きずることができて、他に見つからないように隠せる。死体からアイテムをルートも可能で、使っていた銃は必ず地面に落とすようになっている。
私は銃を使っていた敵を倒しても銃が手に入らないような非現実的なゲームが大嫌いなのだが(敵を倒したら身ぐるみをはがせるのが当然という考え。剣士が剣を落とさないとか絶対におかしい)、本作ではそのあたりはまとも。ただし、銃は一つしか持てなくて、重複する場合は弾丸のみ手に入る仕様。
敵のAIはステルスプレイもできるように鈍感なバランスで、背後から近づけば100%見つからず、視界の範囲も狭い。警戒状態もすぐに解けるのでステルスを維持しやすい。また、右クリックでカバーができることで壁から壁への移動が容易になり、客観視点によって周りの状況が探りやすくなったのも難易度低下に繋がっている。それにより過去作よりも難易度はかなり低く、このあたりは批判があるかもしれない。
私はステルスで攻めているのでアサルトに関してはまだ不明。銃弾がたんまり手に入るし、ヘッドショットなら一撃なので強引にいけばサクサクいけそうな気がする。一発のダメージ量が大きく、連続して攻撃をくらうとすぐ死ぬようになっているが、防御強化してカバーを駆使すれば耐えられるだろうし。
これまでおもちゃっぽい銃撃感だった点は、今作でだいぶん改善された。銃声は篭り気味ではあるが迫力はあるし、マズルフラッシュも派手で綺麗、マシンピストルやアサルトライフルを連射すれば銃身も跳ね上がる。
インベントリはお馴染みのスロット方式。初めは半分のスロットしか使えないが、オーグメンテーションを強化することでフルスロットになる。武器はアタッチメントを装着することにより強化が可能。好きな武器を強化していけばいいだろう。武器の取り扱いは初めから普通に使えるレベルで、Deus Exのようにスキル値で命中率は変わったりはしないので、好きな時に好きな銃で戦えるようになっている。Deus ExのようなRPG的制限が好きな人には不評かもしれないが、シューター好きな人には今作の方が好まれるだろう。
どうせ残念な結果にしかならないだろうと期待値をゼロにしてプレイしたが、昨今の残念な二番煎じゲーに比べればマシな出来。無難な作りで新規性はなく、冒険はしていないが、過去作への敬意は感じられるし、原作レイプにはなっていない。しかしながら、過去作に比べるとお手軽感が強いのは否定できない。ステルスアクション自体が少ないので、そういったゲームをお望みの方やFPS/RPGが好きな人ならそこそこ楽しめる作品に仕上がっているのではないだろうか。