評価は結構高いし、半額で安くなっていたのでHumbleで購入したニーアオートマタ。主人公の女の子「2B」のキャラクターデザインが人気という印象しかなかったのだがプレイを進めているとモブキャラクターの方が魅力的ということに気が付き、「なんだ……こういうゲームだったのか!」と別の意味で衝撃を受けた。
舞台は人間と異星人の戦争が勃発してから数千年後の地球。人間と異星人の両方が死滅した後も人間側の兵士であるアンドロイドと異星人側の兵士である機械生命体が目的を失った代理戦争を延々と繰り広げているという設定。主人公は女性型アンドロイドの2B(ツービー)で相棒の9S(ナインエス)と一緒に機械生命体と戦っている。
冒頭で9Sが「アンドロイドは感情を持ってはいけない規則になってますよ」と発言し、「ああ……またブレードランナーとかアイロボットのようなロボットに感情が目覚めてどうのこうのという電気羊をまともに読んだことのないやつが書くやっすいサイファイか……」とラノベ主人公のような境地で「やれやれ……」と思ってしまった。
ただ、キャラクターのアクションは非常に気持ち良い。アクションゲームとしては良い出来だし、もうちょっとやってみるかと考えを改めた。獣のようなスピーディな走り方、気持ち良く繋がる攻撃、攻撃ヒット時の一瞬停止で伝わる打撃感、はしごを昇り終えた後の体操選手のようなアクション、タイミングさえ合えば確実に回避できる回避アクション。カッコいい超人的なアクションを手軽に行える日本らしいアクションゲームで、アクションだけを見ればそこらへんのトップタイトルに比べても引けを取らない完成度という実感があった。
おまけにどデカいボスとのバトルは迫力があり、演出もスケールが大きい。途中にちょくちょく挟まれるツインスティックシューターや横スクロールシューティングは出来が悪く、高品質な三人称アクションに質の低い低予算インディーシューティングが挟まれるのが不快であったが多少の新鮮味を与えるという意味では悪くないかもしれないのかなと寛大な心で遊び続けた。
舞台は人間や異星人がいなくなった地球であり、荒廃した人口構造物と自然が協調する世界観で廃墟好きにはたまらないかもしれない。ビルのテクスチャはタイリング(繰り返しパターン)が目立ち、Substance Designerをちょっといじっただけのような安いテクスチャーのクオリティには低予算感が浮き立ち、レベルデザインにしても敵やアセットの配置はかなりのテキトー感が目立ち、そこは残念だったが今の日本のゲーム市場ならまぁ健闘している方ではないかと自分を納得させた。
ゲームの進行はリニアなものではなく、多少のオープンワールド要素が用意されている。サブクエストを請け負い、マップ内をうろついて目的物を探したり、アイテムを見つけたりすることになる。「品質はそこまで高くないものの雰囲気の良い廃墟」をボーカル付きのBGMを聞きながら探索するのは悪くないプレイ感覚だ。儚い歌声のボーカル、即興演奏のようなピアノ演奏などこのゲームのBGMは総じて良い。
ここまではまぁ想定の範囲内だったのだが砂漠に埋もれた団地に来てからこのゲームに対する印象がガラッと変わる。バケツにお椀を被せたようなドロイド君のパクリみたいな機械生命体が「ああ!アンドロイドがやってきた!逃げなきゃ!」と団地の奥へと走り去っていく。
当然、こちらはその機械生命体を追っていくとなぜかそいつがこっちに走ってきて、「こっちに来れば安全。ああ!こっちにアンドロイドが居た。アブナイアブナイ」とおっちょこちょいな一面を見せるカットシーンが続く。このやりとりを見て、「他の機械生命体は無言で戦うだけのやつが多かったのにこういう可愛らしいやつもいるのか」と微笑ましい気持ちになってしまった。
アンクさんはこういう人間ぽいやりとりをするロボットが大好きでルンバのルーちゃんが紙を食い過ぎて冷たくなったシーンでも号泣した過去を持つ。ただ、「俺には感情がある!」だとか言い出す押しつけがましいロボットは大嫌いで、だから原作の本質を無視したブレードランナーのテーマは大嫌いなのだ。
ブレードランナー原作の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」では人間らしさとは一体なにか。人間と機械を区別するものとは一体なにか。それについて原作者のフィリップ・K・ディックが彼なりに答えを出している。
ディックからすると共感や感情移入をできるのが人間、できないのが非人間だという。蜘蛛が八本も足あるから四本引きちぎっても大丈夫やろと言って面白半分で足を引きちぎるのが非人間、一寸の虫にも五分の魂で機械にも同情し始めるのが人間と描写されている。大事なのは「俺には感情がある」とか言い出すことではなくて、他者に思いやりを持てるか、道徳心があるかなのだ。
砂漠を越えて以降、機械生命体と関わり、クエストを受けることが多くなってくる。お兄ちゃんロボと喧嘩して家出した弟ロボを心配する母親ロボ、足のパーツが故障したお姉ちゃんロボの為にパーツを探しに砂漠に行って迷子になった妹ロボ。かわいらしいリボンを付けた女の子ロボ、衒学ぶって帽子を被る哲学ロボ。
アンドロイドを狩りに来たらそれまでの信条がグラグラと揺らいでしまったデッカードのごとく。偽物には価値がなく、本物こそに価値があると思っていたが本物のフリをしている偽物にも同等の価値があると思い直したデッカードのごとく。
「ただの敵だと思ってたら機械生命体めっちゃ愛しいやん。バケツにおわん被せただけやのにめっちゃかわいいやん。アンドロイドOSのドロイド君も今までかわいいと思ってたけどより今まで以上にかわいく見えるやん」とドロイド君萌えに目覚めた。価値観の変質、電気羊のデッカードを体験させる装置として本作はうまく機能している。
クエストの内容自体は物を集めるだとか、探すだけの簡単なクエストなのだが、そのクエストをくれる機械生命体のキャラクターがいちいち個性的で、オープンワールド系のクエストキャラの中でもかなりキャラクターが立っている。オープンワールドのクエストはThe Witcher 3がベストだと思っているがクエストをくれるキャラクターについてはNieR:Automataの機械生命体もかなり良い線を言っているのではないかという印象だ。
NieR:Automataの魅力は眼帯したチャンネーのプリケツという人が大半のようだが個人的にはバケツにお椀被せた機械生命体の方がプリティーで魅力的だと言いたい。