一心不乱に採掘を続けていると、あの恐ろしい呻き声は聞こえなくなっていた。外を確認する為、入り口を開けると柔らかな日差しが差し込んでくる。採掘に夢中で気付かなかったが、いつの間にか朝を迎えていたようだ。昔から私は何かに夢中になると周りが見えなくなる。それは今でも変わっていない。
薄暗い洞窟から出ると、開放的な気分に満たされる。洞窟暮らしも悪くはなかったが、やはり外の世界は気持ちがいいもんだ。汚れた手や顔を川で洗い、大きく深呼吸して大自然の空気を堪能する。すると、お腹が「ぐぅ」と不満を漏らした。そういえば昨日から何も食べていない。食事のことを考え始めると、急にお腹が減ってきた。朝御飯にするとしよう。
しかし、食べられるものといえば雑草くらいしか見当たらない。木の実はなっていないし、キノコは見つけたものの色が毒々しくて食べるのには気が引ける。毒キノコにあたって中毒死なんて勘弁願いたいものだ。
途方に暮れていると、遠くから「フゴッフゴッ」と鳴き声が聞こえてきた。そういえば昨日もぶたさんが居たっけ。鳴き声のする方へ向かうと、丸々と太った美味しそうなぶたさんを発見。ぶたさんはこちらの存在に気付いたようだが、気にも止めずお散歩を続けている。元々人間に慣れているのか、それとも人間が恐ろしい存在だと認識しなかったのか。ぶたさんを眺めていると自然にヨダレが垂れてくる。
気は進まないが、背に腹は変えられない。生きていく為には何かを犠牲にしなければならない。私達の生活は誰かの犠牲によって成り立っていることを忘れてはいけないのだ。今日の朝御飯はポークに決定。豚かた、豚ひれ、豚もも、豚ロース、ミミガー、豚足・・・豚肉のフルコースだ。
そうと決まれば捕獲だ。棒で殴って気絶させるのがいいか、それともひと思いにやってしまった方がいいのか。ぶたさんに関する知識が乏しい為、最善の方法は分からないが、きっとひと思いに屠殺した方がぶたさんにとってはいいはずだ。
木と石で即席の剣を握り、ぶたさんに斬りかかる。一撃で仕留めることができず、ぶたさんは悲鳴を上げ、逃げようとする。心が痛む思いでさらに一撃を加え、なんとか屠殺に成功。これで新鮮な豚肉を手にすることができた。豚肉にサッと火を通し、ぶたさんに感謝しながら頂く。ぶたさん、ほんとうにありがとう。
満腹になった私は島の探索を続けることにした。島を探検できるのは明るい今のうちだ。昨日とは反対方向を調べた方がいいだろう。そこには新たな発見があるかもしれない。
道に迷わないように目印を付けながら探索していく。すると洞穴の中に人の姿が発見する。しかも、二人も居る。やはり私以外にも人は居たのだ。他人の存在に興奮を抑えきれず、急いで洞穴に近づくとその人達もこちらに気付いたようだ。
だが、彼らが振り向いた瞬間、希望は脆くも崩れ去った。なぜなら彼らは人間ではなかったからだ。正しく表現するなら、昔は人間だったかもしれないが、いまは人間ではない。人の形をしたバケモノ。空想の世界でしか見たことのなかった、生ける屍がそこに居た。愕然とした思いと恐怖で動けなくなる。彼らは恐ろしい呻き声をあげながら、一歩一歩近づいてきた。
目と鼻の距離まで近づいた時、奇跡が起こった。やつらは炎に包まれ、一瞬のうちに燃え尽きたのだ。恐らく陽の光が浄火となり、やつらを焼き尽くしたのだろう。やつらは陽の当たらない世界でしか生きていけない存在なのだ。それなら昨日の夜に聞こえていた呻き声が朝になるとパッタリ止んだことにも納得がいく。
やはりこの島には私以外の人間は存在しないのかもしれない。先程の出来事があまりにもショックで急に絶望感に包まれる。果たして私一人で生き延びていくことは可能なのか。先の見えないサバイバル生活はまだ始まったばかりだ。