Far Cry 2 (2008 - Ubisoft's Montreal studio)
噛み合わないシステム、シニカルな物語、物議を醸す迷作
いつものUbisoftのごとく、内容を大袈裟に誇張し、大風呂敷を広げただけの駄作。それがFar Cry 2の第一印象だった。まともに機能していないシステムの残骸、単調極まりないクエストの数々には「またこのパターンか…」とうんざりさせられ、Crytekの名作「Far Cry」の冠をネームバリュー目当てで拝借し、おおよそ似つかぬ内容で売り出すその手法に殺意すら抱いたことをよく覚えている。しかし、嫌々ながら遊び続けていくことでFar Cry 2の本質が垣間見え、Far Cryらしいモチーフをいくつか備えていることを発見し、そこから私の評価は180度変わることになった。
海外では企業レビュアーとユーザーレビュアーで大きな溝のあるFar Cry 2。その理由は今ならよく分かる。本作は洗練されていないところ、ゲームデザインの提供に稚拙な部分があるのは事実だ。恐らくその点が賛否両論を生む結果になっているのだろう。Ubisoftが発したウソすれすれのキーワード(勢力、広大なアフリカ、画期的なランダムクエスト)を信じた人は私の第一印象のように感じるだろうし、期待した人ほど肩透かしは避けられない。
だが、それらの要素を抜きにしたとしても、正しい遊び方をすれば本作は意外に楽しめるタイトルである。ただし、これはあくまで一部の人間にとってであり、万人に薦められる内容ではないのは確かだ。ゲームデザインにしろ、ストーリーにしろ、好き嫌いが激しく分かれるゲームであると先に断っておく。
主人公はアフリカで傭兵として生きていくことになる。 |
世界平和なんて所詮幻想
プレイヤーは九人用意されている人間の中から主人公を一人選び、アフリカの紛争地帯へ訪れるところからゲームは始まる。主人公はこの地域で暗躍しているジャッカルという武器商人を探し出し、武器の供給を遮断し、争いを終結させるのが目的だ。この地域には二つの勢力-UFLL、APRが存在し、どちらかから依頼を受けて、ジャッカルの情報を集めていくことになる。
マップ上にはメッセージが込められたジャッカルテープというアイテムが隠されており、そこからジャッカルの思惑を予想していく要素も用意されている。ただし、これは必須ではなく、別に探さなくてもよい。
物語は示唆に富んだ内容となっている。ジャッカルの正体を探っていく内に次第に新たな真実が現れ、性善説・性悪説とは何かを考えさせるものへと発展していくのだ。所詮、善悪とは流動的であり、見方によって姿を変えてしまうあやふやなものに過ぎない。誰かの幸せを願おうとすれば他の人が不幸になり、何かを救う為には何かを犠牲にしなければならないのは必然である。UFLL、APR、そしてジャッカルの存在が世の中の摂理をプレイヤーに訴えかける。
本作はマルチエンディングながら結末は似通っており、後味を濁すものになっている。敢えて、白黒付ける終わり方にしなかったのは世の中の不条理さを描きたかったのではないだろうか。現実のアフリカは今なお、部族対立による国内紛争が後を絶たず、ダルフールやソマリアの不安定な情勢は日本にいても聞こえてくる。アフリカを舞台に選んだのはタイムリーかつ、有意義な題材を扱っていると感じた。
アフリカを意識してか、キャラクターの言葉に独特の訛りがあり、聞き取り辛い。英語が苦手な人はちょっと厳しいかも。 |
好みの銃、好みの時間。箱庭で思う存分、狩りを楽しむ
マップは一つの箱庭となっており、その中で任務を請け負い、ストーリーを進行させていくのが基本的なゲームの流れとなる。内容としてはBoiling PointやGrand Theft Auto IIIのようなオープンエンドタイプのゲームだと考えてもらって構わない。 UFLL、APRの勢力からメインミッションを受けられる他に、電波塔、武器商人、バディからサイドミッションを受けることもできる。メインミッションと電波塔のミッションではダイアモンドを入手でき、武器商人のミッションは新武器のアンロック、バディのミッションは評判上昇となっている。
主人公はミッションをクリアしていくことでバディと知り合う。バディはこの世界で唯一の仲間だ。ただし、一緒に行動したり、分隊を組むようなことはできない。バディと仲良くなると主人公が死んだ時に救出してくれることがあり、その時はゲームオーバーにならずに助かる。この要素は不慮の事故に巻き込まれた時に大変役立つ。ただし、セーブポイントが限定的な家庭用ゲーム機ならいざ知らず、どこでもセーブできてしまうPC版では有り難味がやや薄い印象は否めない。
メインミッションを引き受けると、直後にバディから電話が掛かってきて、「こんな方法もあるけどどうだ?」と別の解決方法を掲示される。もちろん、初めの方法で解決してもいいし、バディの話に乗って別の方法で解決するのもアリだ。ただ、私の体験した限り、バディミッションはやらなければならないノルマが増えて、余計面倒になることが多々あった。
バディミッションでは無益な殺生を避けられる可能性も…。 |
ミッション報酬のダイアモンドはこの世界で通貨の役割を持ち、装備品を購入できる。装備品は銃の他に、武器のアップグレードキット、回復回数の増加、カモスーツ(ステルス能力上昇)、車両の修理能力上昇といったものが用意されている。そして、一度購入した銃は倉庫に新品がいつでも補充されるようになる。
銃器は使い過ぎると劣化し、ジャムを起こしやすくなり、最後には銃身が爆発して壊れてしまうため、なるべく新品を使うようにマネージメントするのが重要だ。しかし、この仕様のせいで敵の武器を拾ってサバイバルするようなプレイスタイルの必要性は薄くなっている。
武器のスロットはプライマリ(アサルトライフル、グレラン、スナイパーライフル)、セカンダリ(照明弾、ピストル、サブマシンガン、リモコン爆弾)、スペシャル(ロケラン、ダートライフル、火炎放射器、軽機関銃)と分かれており、それぞれ一つずつ携行できるようになっている。
一度に所持できる武器の縛りは強く、敵に対して過度なオーバーパワーになり過ぎないようにバランスが取られていると感じた。それゆえ武器の編成には頭を悩ませることになるだろう。この悩んでいる時間がなかなか楽しい。とはいえ、自分の好きな組み合わせで自由にやりたいと少なからず感じるのも事実だ。
銃の種類はかなり豊富だが、その性能差にバラつきがあり、中には使えない武器もいくつかある。特にアサルトライフル系は遊び用の武器と化しているほどだ。威力、命中率、弾数共にサブマシンガンと変わらない癖に、アサルトライフルはプライマリ枠を占有してしまうので、このゲームではかなり存在感が薄くなってしまっている。
一方、火炎放射器や照明弾はユニークで使用していてなかなか面白い。これまでのFPSでは火炎放射器の存在はネタの範疇であったが、Far Cry 2では主力として扱える武器になっている。これは本作独自の引火システムの効果によるところが大きい。
このゲームでは一度、火が着火すると燃えやすいものに次々と引火していき、瞬く間に辺り一面が火の海と化す。草や木など、挙句に小屋まで燃え移るので、敵をあぶりだしたり、または逃走する際に火を撒き散らすと効果的だ。火の要素をここまで上手く活用したFPSは少ないのではないだろうか。火がジワジワと燃え移っていく様は見ていて非常に楽しく、最高級の汚物は消毒っぷりが堪能できるはずだ。
爆発描写や引火システムは大変優秀。破壊するのがとても爽快だ。 |
マップ上にはセーフハウスが何件も存在し、一度解除すると以降は敵が寄り付かない安全地帯となる。セーフハウスには寝具が置かれており、ここで時間の調整が可能だ。時計を調整すれば夜にするのも、朝にするのも、昼にするのもプレイヤーの自由。雨が降り注ぐような天候の悪い時はセーフハウスで休んで、待ち過ごすのもいいだろう。
セーフハウスには弾薬や回復薬が置かれており、プレイヤーの評判が上昇するに従ってさらにアイテムが充実していく。また、武器商人から武器ケースを購入すると各セーフハウスに同じものが設置されるようになり、一つだけ武器の移動が可能になる。武器ケースの中に新品の銃を入れておいて、手持ちの銃が劣化したらセーフハウスに立ち寄るような使い方ができるだろう。近くに武器倉庫がない時は重宝する。この武器ケースの仕様はまるでドラえもんの道具のようで違和感を少なからず感じるが、あまり気にしないようにしたい。
敵のAIはなかなか臨機応変な対応が可能だ。プレイヤーがアサルトプレイ、ステルスプレイの両方を行えるようにうまく調整されており、Far Cryライクなゲリラ戦が展開できる。また、マップが入り組んでいて、抜け道が沢山存在し、ルートによっては敵をスルーできるところもFar Cryらしい。仲間の死体を発見すると辺りを捜索し、銃声の聞こえた方に集まっていく習性、スナイパー兵(ロケラン兵、迫撃砲兵)の索敵能力の高さ、機銃を乱射しながら執拗に追い掛け回してくるご機嫌なバギーの存在など、Far Cryを彷彿とさせる要素を本作も少なからず持っている。
このゲームの本質は「好きな時間に、好きな武器編成で敵を思う存分に狩る」ところにある。豊富な銃の中からお気に入りの組み合わせを編成し、ミッションの内容から対処法を考え、目標地へ好きな時間帯に出かけ、自分のプレイスタイルで敵を狩っていく。これが本作の意図している遊び方だと思われる。
このゲームでの敵は、他のFPSのような“障害”ではなく、“獲物”に近い。「次はどんな手で狩ってやろうか。フヒヒ…」とミッション毎に舌なめずりするのが好きな人に向いているゲームだといえるだろう。逆に、先の展開をとにかく急いだり、常に展開の起伏を求める人には向いていない。ボリュームは20時間~30時間に亘るため、じっくりまったりと悠々自適に狩りを楽しめる人でなければ本作とはうまく付き合えないだろう。また、後半にならないとすべての武器がアンロックできないようになっており、序盤はあまり好きなように振舞えず、つまらない印象を受ける可能性も否定できない。
思わぬところに近道がある。敵に遭遇せずに目的地へ到着することも可能だ。 |
メインミッション、サブミッション共に反復的な内容でお世辞にもバラエティに富んでいるとは言い難いのは残念なところだ。敵を倒せ、アイテムを破壊せよ、この二つの任務がほとんどで代わり映えのしないミッションが延々と続く。弥が上にもアサシンクリードの悪夢を思い出さずにはいられない。Ubisoftの人達はなぜこれほど創造性に欠けているのだろうと疑ったが、中盤が過ぎてようやく気付かされた。わざと単調で短絡的で安直なミッション構成にしているのではないかと。
なぜなら、本作が意図している「自由きままな狩り生活」を実現させるためにはミッションは似通った内容の方が都合がいいのだ。もし、攻略の手順がある程度決まっていたり、頭を悩ませるようなパズル要素が存在したりするとプレイスタイルが著しく制限されてしまいかねない。
だから敢えて、プレイヤーが簡単に予想できうる単純なミッションをいくつも揃えているのではないだろうか。 幅広いプレイスタイルに対応させるために「目標はボスの暗殺。後はあなたの好きにしてね。煮ても焼いても自由だよ」と意図的に難雑なミッションを避けているように感じた。貧しいミッション内容を好意的に解釈すると以上の結論に行き当たる。
暗殺対象が街中に居ることもある。その場で暴れるもよし、遠くからスナイプして逃走するもよしだ。 |
すっきりしない要素
このゲームにはUFLL、APRという二つの勢力が存在し、片方に加担してゲームを進めなければならないのは前述した通り。しかしながら、どちらかの勢力に加担したとしても友好的な人間が増えるわけでもなく、中心の街から出れば全て敵で生活観など皆無である。それに加えて、結局のところどちらの勢力の依頼もこなさなければならず、ミッションの順番が先になるか後になるかの違いでしかなく、勢力を選択する意味がほとんどない。マップは50km四方というだけあって、なかなか広く、ロケーションも多彩だ。だが、探索する楽しみにやや欠けている。マップを探索させるために、ダイアモンドとジャッカルテープ探しが用意されているが、ダイアモンドはミッションクリアしていけば大量に手に入るのでわざわざ探し出すような魅力に欠け、ジャッカルテープも別に入手しても役立つわけでもない。移動中に見つかったらいいなという程度だ。また、どこにどの施設があるかは始めから地図に記されているため、マップを踏破する喜びを失わさせている。地図は黒く塗りつぶされた状態であれば、まだ探索する楽しみはあったと思うのだが…。効率主義的な人は、移動は退屈に感じる可能性があるだろう。
アフリカの大地を爆走。マップ上に遊び要素があると嬉しかった。 |
敵の見張りが構えている場所-ガードポストがマップ上の至るところに存在し、プレイヤーの行く手を阻む。この場所に居る敵を全滅させるとガードポスト解除となり、地図上のアイコンが変わるのだが、変わったからといって何の意味もない。そこから少し離れると、すぐに敵がどこからともなく復活し、プレイヤーを待ち構えているという状態で理不尽にすら思えてくる。家庭用ゲーム機版では実績解除の一つなのかもしれないが、Liveに対応していないPC版では謎な要素だ。
主人公はマラリアに感染しており、定期的に薬を補給しなければならない。これが非常に面倒極まりなく、ゲームの方向性と相反しているように感じる。マラリアの症状を抑制する薬には限りがあり、いつ無くなるか不安で仕方ない。手持ちの薬が無くなると特定のミッションをこなし、新たな薬を入手しなければならなくなる。せっかく自由自適に狩りを楽しみたいのに「さっさと先に進めろ」と急かされているような気分にさせる。
マラリアの薬を得る為には、ミッションをこなさなければならない。 |
万人ウケはしないが、趣向が合えば化けるかも
再三、述べてきたように、Far Cry 2は人を選ぶゲームだ。だが、Far Cryのようなゲリラ戦が好きな人、マップを自由に移動しながら敵を狩ることに面白みを得られる人ならば楽しめる可能性はある。余りある欠点を認識した上で、それでもまだ楽しめそうだと思う人は挑戦してみるのもいいだろう。・これまでの日記
2009年1月12日 血も涙もない不条理
2009年1月11日 歯列矯正
2009年1月10日 エクスプローシブで楽しき哉地獄
2009年1月4日 狩りという名の遠足
2009年1月2日 スローライフスローフード
2008年10月31日 同じ轍を踏む
2008年10月30日 お医者さんごっこ
2008年10月29日 孫の手が欲しい
2008年10月28日 麻剌利亜と阿弗利加
2008年10月28日 三千里のお使い
2008年10月27日 ジャムと戦う日々
2008年10月27日 ビバ焼畑農業
2008年10月26日 シマウマやライオンは居ますか?
2009年1月14日 記