トーマスはこの街が好きだった。
交通整備がしっかりしていて、公共施設も完備されている。
生活するには不自由をなんら感じない。
工業問題に不満を持つものがいるが、工業はこの街の発展にかかせないものだった。
工業がなければ、ここまで大きな街にはなっていなかったことだろう。
市民の多くは市長を尊敬しており、生活に満足している。
市長に悪態をつく連中はバチあたりもいいとこだ。
誰のお陰でいまの快適な生活を享受できていると思っているんだ。
この街は昔、廃村だった。
ピーター市長は十数年の間に、廃村を街へと作り変えた。
そして今では首都を越えるほどの大規模な都市となり、工業と商業の中心地になっている。
「ピーター市長のような立派な人間になりなさい」
トーマスは息子にいつもそう言い聞かせ、ピーター市長の功績を耳にタコができるくらい説明した。
トーマスは朝食を食べ終え、出社の準備をした。
「息子はまだ寝ているのか?」
妻に問いかける。
「もうとっくに準備して出かけたわ。今日は月に一度の社会見学なの」
「そうだったな。じゃあ、行ってくる」
妻にいつもの挨拶をし、家を出た。
トーマスは外の風景の異常に気付いた。
空が薄暗く、とても朝の風景には見えない。
お天気ニュースでくもりのち雨と言っていたが、それにしても度を越えている。
しばらく空を眺めていると、南西の空から金属製の円盤状の物体が火を噴きながら飛んでくるのに気がついた。
飛行機にしては形が異常だし、なにより火を噴いているのは危険だ。
周りを見ると、あの物体に気付いた人達が他にも居て、あれはなんだと口々に言っている。
すると、物体はトーマスの頭上まで来て、火の噴射をさらに強めた。
その炎で家や建物に火がつき、辺り一面は火事となり、住人はパニックに陥っている。
トーマスは腰が抜けて、ただその光景を唖然と見つめるほかなかった。
物体はいまだに噴射を続けて、止める気配はない。
むしろ、前よりも強くなっている。
やがて、炎は人々にも燃え移り、さらに混乱した状態になっていく。
まるで戦時のようだ。
トーマスはなすすべなく、神に祈るしかなかった。
「神様、助けてください」
次の瞬間、物体の頭上に雷雲が発生し、雷が落ちた。
その雷が物体に命中し、物体はあちこちから火をあげて墜落していくのが見えた。
そして、豪雨が降り注ぎ、火事はたちどころに消火された。
「神様、ありがとう」
トーマスは救いの雨に打たれながら、空を見上げ、そう呟くのだった。
コメント
原発に墜落
次の瞬間ゴジラ発生