これまで私は異世界転移もののマンガやアニメをあまり見てこなかった。しかし、様々な作品が発表され、アニメ化もされており、どこかにウケている理由があるはず。その理由が知りたくて電子書籍を課金して、いくつか読んでみたので印象に残った作品を挙げてみたい。
異世界、転移・転生の定義
・異世界:主人公が住んでいる世界とは別の世界が存在する。別の世界が存在しない作品はファンタジー、SF作品であって異世界ものではない。
・転移:現代の主人公が異世界に移動する。または病気、事故などで死亡後、現代人の姿のままで異世界に移動する。
・転生:現代の主人公が死亡後、異世界で新たに誕生する。病気、事故などで死亡後、異世界人に生まれ変わる。赤ん坊から始まる作品もあれば、ある程度成長した異世界人に現代人の魂が乗り移る場合もある。
主人公が無能
・無能風有能転移型:現代人が何人か転移するが、その中で主人公の能力が弱く、国から追放される作品。しかし、弱いとされる能力が実は強い。初級の能力を主人公が使うと上級並の効果が現れたり、低級職なのに上級職に匹敵する。
・無能風有能転生型:転生後、成人の儀式で能力を授かるがその能力が弱く、家督から外されたり、不人気な領地に飛ばされる。しかし、弱いとされる能力が組み合わせ次第では実は強く、MMORPGや前世の知識を活かして困難を解決していく作品。
・無能型:本当に能力が低く、異世界での苦しい生活を余儀なくされる。
まず、主人公を下げてから上げる。いきなり最強というわけではなく、主人公下げが長い分カタルシスが得られる。前提上、嫌なキャラが多く登場し、視聴のストレスは高い。
・JKハルは異世界で娼婦になった
女子高生のハルが異世界に転移するが、そこは男尊女卑が激しい世界。女性は冒険者になれず、日銭を稼ぐ手段も少ない。ハルが生活する為の手段は売春しかなく、娼婦となり働き出す。あらすじだけ見ると本当に悲惨な話なのだが、それを感じさせないハルの生き方、諦観に共感を覚える。ただ、この作品がすごいのは30話辺りからのどんでん返し、それまでは長い長い前振りにすぎない。私は異世界生活もの、売春ものとして読んでいた為、伏線を予想しておらず、強い衝撃を受けた。
最強チートもの
・能力授与型:異世界に転移・転生前に神様と交渉し、主人公が強力な能力を授かり、異世界を無双する作品。神様が主人公の境遇を不憫に思った結果、能力を与える。神様の手違いで主人公が異世界に行かなければならず、お詫びに強い能力を与える場合もある。
・前世最強型:前世では強大な戦士や魔法使いで、異世界に転生後にその力を継続している作品。ファンタジー世界から別のファンタジー世界へ、あるいはSF世界からファンタジー世界へ移動するパターン。
異世界人が常識知らずの主人公を馬鹿にした後、主人公が能力を誇示して見返す。水戸黄門型のジャンル。強い主人公の周りに異性が集まり、ハーレムが形成される。主人公が強すぎ、苦戦しない為、視聴のストレスが少ない。主人公に自分を投影し、ぼーっと見ながら自己顕示欲が満たせるところに需要があるのだと思われる。戦闘能力が高い場合はバトルマンガになるが、生産系の能力の場合は鍛冶や商人寄りの作品になる。回復能力の場合は四肢損傷した奴隷を治した結果、主人公に忠誠を誓う展開が見られる。
異世界大河もの
・大河型:主人公の誕生から死までの人生、時代を描いた作品。能力の授与がなく、主人公の後天的な努力によって物事を解決に導く。
世界設定や人間関係が緻密で重みがある。主人公は無職、引きこもりで、前世の生き方に悔恨の念が強くあり、それが転生後の原動力となる。最強チートものの主人公と違って、もがき苦しむ展開が多い為、視聴のストレスは高い。
・無職転生 ~異世界行ったら本気だす~
無職の男性が異世界に転生し、人生をやり直す。序盤こそ主人公の知識によって無双できる場面があるものの、物語が進むにつれて最強チートもののようには行かない状況に陥る。登場人物の行動原理がしっかりと設定されており、関係性が丁寧に描写されているのが特徴。原作の小説は完結しており、文字通りゆりかごから墓場まで、一つの時代が描かれている。
・最果てのパラディン
引きこもりの男性が異世界に転生するが、赤ん坊の頃に捨てられ、ガイコツ剣士・ミイラの聖女・幽霊魔法使いに拾われて育てられる。血は繋がっていないが育ての親であるバケモノ3人との関係性が美しい。ただし、この作品のピークは3人との暮らしの部分で、親離れして旅に出た後の盛り上がりが弱い。
現代往来もの
・自由往来型:異世界と現代を自由に行き来する能力を手に入れ、異世界生活を満喫する作品。冒頭で宝くじや資産投機に成功しており、金銭的制約が少ない状態から始まる。
・目的達成型:なんらかのミッションが発生すると異世界に転移し、目的を達成するまで現代に戻れない作品。異世界GANTZ。
往来が可能なので異世界がキャンプ場やアミューズメントパークのような立ち位置で、異世界探索が新たな趣味と化しているジャンル。住民との生活、スローライフが描かれており、戦闘重視の作品とは異なった魅力がある。
・異世界車中泊物語 アウトランナーPHEV
悲観したサラリーマンが異世界に転移し、生き方を見つめ直したことで現代の生活にやりがいを覚えていく。転移のタイミングは自分で選べず、時間軸もバラバラ。異世界バックトゥザフューチャー。ヒロインの獣人と2回目の再開のはずが実は4回目だったり、子供だった獣人が次に会う時は大人びた姿で思わせぶりな態度を取ってきたりと時間軸のズレが特徴となっている。レイアウト(背景やキャラクターの配置・コマ割り)が映画的で、序盤を何度も読み返すほど好み。台詞は原作の小説よりも漫画版は削られているが、含みを持たせる削り方で洗練されている。ただ、物語が進むにつれて現代の話が長くなり、現代の先輩や後輩も主人公に好意を持ってハーレムを形成し、異世界の話が薄くなっていくのが残念な点。
異世界人転移もの
・異世界人自由往来型:異世界人が現代にやってくるが異世界へも自由に往来でき、平和な日本や文化を満喫する作品。
・異世界人転移永久型:異世界人が現代にやってくるが異世界に戻る方法が分からず、日本での生活に戸惑いながらも慣れていく作品。
海外旅行や国際結婚だけではマンガのネタとして弱いが、異世界の要素を足すことで新鮮味を持たせている。バトル要素を抜いたFATEのセイバー。
グルメもの
・現代料理再現型:異世界では料理が発達しておらず、現代の料理を作ったところ、異世界人に大ウケする作品。やはり料理ものだからか、バトルものに比べると女性向けの作品も多い。
・薬型:ポーションが美味、調味料となっている上に、主人公作成のポーションの薬効がやたらと高い作品。
食べ物という共感しやすい要素と異世界を足したジャンル。異世界版海外の反応。
・異世界料理道
異世界の部族の村に転移し、そこの掟やルールに戸惑いながら、住人に認められるよう料理で奮闘する作品。異世界で生活する作品は中世の街や村で暮らすものが多いが、こちらは少数部族の生活を描いているのが特徴。キャラクターのデザイン、表情が本当に好き。
人外転生もの
・人外転生型:スライム、蜘蛛、剣、ドラゴン、ガイコツ、魔王、宝箱、自動販売機など、人間以外の物やモンスターに転生した作品。
戦闘要素はあるが別の種族との交渉や村づくりなど人外目線で描かれており、異なる立場で描かれているところに新鮮味がある。
価値観逆転もの
・外見逆転型:現代では醜いとされる容姿が異世界では好まれる作品。逆に異世界では醜いとされる容姿が現代人からすると美形。
・女性肉食型:なんらかの理由で男性が少数化しており、女性に襲われる作品。
外見逆転型はロマンス要素が高く、どちらかといえば女性向けのジャンル。現代人からすると超イケメンが異世界では忌避されており、そこが女性の庇護欲を誘うのではないだろうか。
悪役令嬢もの
・粛清回避型:乙女ゲーム好きの主人公は死亡し、乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生するが、その悪役令嬢は数年後に処刑(ざまぁ)される。主人公はゲーム世界の未来を変える為、良い行いを心掛けた結果、乙女ゲームのメインヒロインとも親友になる。
・メインヒロイン悪役型:乙女ゲーム好きの主人公は死亡し、悪役令嬢に転生するが、良い行いを心掛ける。しかし、乙女ゲームのメインヒロインがとてつもなく性悪女で、悪役令嬢に罠を仕掛ける。
・悪役令嬢救出型:乙女ゲーム好きの妹の兄が死亡し、平民の男性に転生する。損な役回りの令嬢が周りから悪役令嬢と認識されており、許嫁の王子から酷い扱いを受けている。主人公は悪役令嬢を不憫に思い、救出する。
乙女ゲームの世界が舞台となっており、女性向けに作られたジャンルなのだろうと思う。ゲームの未来をいかに変えるかが目的となっており、ミステリー要素が高いのが特徴。メインヒロインに転生ではなく、悪役とされる女性となり、悪評を覆していくところに一種のカタルシスがあるのではないだろうか。
豚貴族もの
・更生型:わがままし放題、メイドにセクハラし放題の貴族の太った子供に乗り移り、更生していく作品。まず前提として、太った悪ガキの必要があるので赤ちゃんから開始することはない。悪ガキが事故で頭を打った瞬間か高熱で生死をさまよった後に転生、以後まともになるというテンプレートがある。
悪役令嬢ものと同じく、悪評を変えていくところに爽快感があるのだろう。ただ、悪役令嬢は美形に描かれているのに対し、豚貴族は太っていて鼻も豚のような造形をしているところが異なる。肥満男性が共感、投影しやすい為か、あるいは見た目は豚だけど優しくて有能というギャップを狙っているのだろうか?
通販もの
・貿易型:アマゾンのようなネットショップを使える能力を授かり、現代の製品を異世界で売り、商人として生活する作品。
・無人島型:異世界の無人島に転移するが、ネットショップ能力によって物資を補給できる作品。
チートものの類型だが、こちらはバトルよりも生活を重視している。ドラえもんの道具のごとく、次々と新しい商品を出すことでネタが尽きない仕組みになっている。
ダンジョンもの
・ダンジョンマスター転生型:ダンジョンマスターに転生し、ダンジョンを運営する作品。冒険者をダンジョンに誘い、その命をポイントに変換し、ダンジョンを強化していく。
通販ものと同じで、新しいトラップやアイテムが次々と出すことでネタ不足を解消している。状況が同じような展開になりがちなところをどう工夫するかが見せ所なのだが、いくつか読んでみたところ、苦戦している作品が多いと感じた。
政治経済もの
・王国領地運営型:貴族に転生。現代の知識を活かし、貴族社会の中で、民主主義の思想を広げ、国民を救済する国作りを行う作品。ブラックな環境をホワイトに作り替えることで国が発展していく。
・まつりごと型:貴族、王族間の駆け引きに重きを置いた作品。
どうしても政治経済を題材すると堅苦しく、おっさんばかりになりがち、異世界の要素を取り入れることでとっつきやすい部分がある。しかし、既存の文化や伝統を壊すようなリベラル思想、革命路線が見られ、保守的な思想がないがしろにされているように感じる部分もあった。
・理想のヒモ生活
現代の男性が異世界の女王の婿として迎えられる作品。女王にはとある理由があり、主人公が婿として打ってつけの条件であり、なにもしなくていいから婿として来て欲しいと懇願する。主人公もヒモのような生活を受け入れて異世界に留まるが、王族のやりとりや策略に翻弄され、理想のヒモ生活が送れなくなってしまう。題名は軽いノリの作品に見えるが、政治に重点が置かれており、異世界ものではなかなか見ない内容。現代と異世界、為政者と一般人の価値観の違いなど考えさせられる部分もある。
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