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Clive Barker's Jericho (2007-Mercury Steam Entertainment)

■映像は優秀、ゲームとしては今一つ

おいでませクライブ・バーカーの世界
Clive Barker's Jerichoは、クライブ・バーカー御代が監修を務めたFPSである。ゲームのビジュアルは非常に素晴らしい出来で、バーカー氏の世界が忠実に再現されていると言っても過言ではない。

醜悪かつ美しいクリーチャーの造形はファンなら一見の価値がある。皮膚のヌメヌメとした光沢、流れ出る粘液や血液に至るまで妥協なく作りこまれ、アップで見ても鑑賞に堪えるクオリティを誇っている。近付いたらポリゴン丸出し、テクスチャが低解像で、化けの皮が剥がれ落胆することなどない。むしろアップで見れば見るほど、そのディティールの凝りように舌を巻くはずだ。ハードウェアの進化を実感すると共に、この世界を作り上げたMercury Steam Entertainmentの3Dアーティストの技量に驚かされる。

バーカー氏のファンならば、彼がデザインしたクリーチャー達がリアルタイムに動き回ることにきっと感動を覚えるであろう。Clive Barker's Jerichoは、バーカー氏のインタラクティブムービーとして見れば一流の仕上がりである。

しかし、ゲームは映像が優れているだけでは駄目なのだ。ゲームを構成するあらゆる要素が合致してこそ、ゲームとしての真価が問われる。“ゲーム”である以上、特にゲーム性が重要とされるのは言わずもがな。映像はそれを引き立たせる為の装飾に過ぎない。

●コンセプト倒れしたゲーム性

このゲームの一番ユニークな点は、主人公が仲間に乗り移りながら、部隊を指揮していくことであろう。これは事前情報で明らかにされているので構わずに言うが、超能力部隊Jerichoのリーダーである主人公は序盤で死んでしまう。そして魂だけが生き残り、仲間に憑依して、身体を借りながら作戦を続けていくのである。

部隊のメンバーは、発火能力・スローモ・サイコキネシス・捕縛・シールド等…それぞれ特殊な能力を持っている。主人公は彼らに乗り移って、能力を駆使しながら窮地を乗り越えていくのだ。襲い掛かってくるクリーチャー共を、様々な能力を使って陵辱するのは楽しく、組み合わせ次第では戦略も広がることだろう。例えば、敵を捕縛した後で、ゴーストバレット(スナイパー弾を操る能力)を使って、根こそぎヘッドショットすることも可能だ。

手をかざせば、ワンタッチ蘇生
もちろん、主人公が乗り移っていない仲間に関しては、各自行動を自動的に取る。リーダーは命令を下せるが、出来るのは「進め・戻れ・あそこらへんへ行け」の大雑把な命令くらいで、他の部隊指揮ゲームのような複雑さは必要としない。特殊部隊の雰囲気を味わせながら、アクション性の高いゲーム展開をプレイヤーに体感させたい、開発者の狙いが窺える。事実、このゲームはカバーからカバーへ移りながら射撃を繰り返すより、近接戦闘でドンパチするシチュエーションが多い。そういったアクション要素を重視した特殊部隊ものは少なく、またクリーチャーの造形を前面にアピールするにはCQBは効果的な方法であり、目の付け所は非常に良いと言えるだろう。

しかし、それは実現していればの話。残念ながら、その狙いはゲームバランス及び技術的な問題で実現出来ておらず、失敗に終わってしまっている。

まず、部隊行動は上手く機能しているとは言い難い。部隊のマネージメントに気にせずに、特殊部隊の雰囲気を味わいながら伸び伸びと銃撃を楽しめるかと思いきや、結局はAIの杜撰な行動の数々に気を取られることになる。仲間のAIは、敵が近付いてきても棒立ちを続けることが多く(敵はうまくカバーしているのに!)、そのままやられてしまうことが多発する。とにかくトリガー任せで予め決まっている行動しか取れず、状況判断能力が皆無。集中砲火されていても、回避するような能力のない前世代的なAIなのだ。しかも、一度交戦が始まると、リーダーの命令に聞く耳を持たないから、こちらはどうする術もない。そして、「止まれ」と命令しているのに、いつのまにか「進め」に切り替わる事があるから困りもので、突撃していった仲間を制御することはもはやままならない。

結局のところリーダーは、ゴリ押しで敵を倒し回り、ピーピー泣き叫ぶ仲間を生き返らすのに必死にならなければならないのだ。これではシューティングゲームの爽快感も攻略性もあったものではない。そもそもプレイヤーが望んだ行動を仲間のAIが取ってくれるハズがなく、今までにも失敗例は枚挙に遑がない。Jerichoでは、詳しく命令出来ないことが逆に仇になり、余計なストレスを生むハメになってしまっている。ある程度の命令が下させれば、ストレスは軽減されたことだろう。

そして、特殊部隊ゲームの戦略性を捨て去って、アクション性を重視したせいかは知らないが、レベルデザインは平坦極まりない作りになっている。強制的に走らされている感が否めず、空間を活かした攻略性は皆無。ゆえにリプレイ性は低いと言わざるを得ない。

●その他不満

クイックタイムイベント。一度失敗してしまうと、もうどうでもいい境地
Jerichoでは、クイックタイムバトルというシステムを取り入れている。これはカットシーン中にキー操作を要求するもので、カットシーン中でもインタラクティブ性を与えて、見ているだけの退屈なものにさせない狙いがある。しかし、シューティングゲームを望んでいる人に、リズムゲームのような下らないキー操作を強要するのはお門違いだろう。確かに、カットシーン中もゲームとの一体感が生まれるかもしれないが、それはつまりカットシーンだけで勝負出来ないと言っているのと同じことである。リズムゲームをしていないと見るに値しない、見る者を引き付けられないシーンだと。

このシステムは大容量時代と言われたCD媒体のゲーム機が登場した時に一時流行り、一瞬にして廃れていった。なぜ廃れたかと言えば、それはキー操作なんかに気を取られずに、映像を純粋に楽しみたかったからである。なぜか最近再び採用するケースが増えているが、彼らは自分の作った映像に自信がないのだろうか。それにカットシーン中にインタラクティブ性が望めないのを理解しているのなら、シネマとアクションが一体となった解決策を模索するべきである。廃棄物を再利用するのは頂けない。

インタビューの話では、今までにも見たことのない新たなホラーを掲示するということだったが、ホラー要素がどこにあったのかと問いたくなる。そもそもオーバースペックの超能力者6人が揃ってドンパチする内容に恐怖しろというのが無理難題。しかも、ゲーム中にホラーを強調した演出は非常に少ない。

バーカー氏は、恐怖の演出や残酷な描写に長ける人であるが、このゲームからはSM要素や痛々しさを感じられなかった。バーカー氏はあらゆる作品中で「苦痛とは究極の快楽」と提唱しているが、Jerichoはその範疇にはなかったということなのだろうか。一応このゲームにも、自傷することに意味があったようなのだが…。

ピンヘッド?も友情出演
造形がとても良い。正直○○る
捕縛してからヘッドショット!
燃ーえろよ 燃えろーよ
Coleのスコープで弱点を見出せ
ゴーストバレットでヘッドショット!



■ゲーム内容は練り込み足らず

バーカー氏のデザインした世界観の再現度は高く、映像表現はトップクラス。 ゲームの展開も後半に行くにつれ、加速を増し、夢中にさせてくれるだろう。しかし、ゲーム内容はコンセプト倒れしており、中途半端な出来。ゲーム中は常にAIの愚行にいらいらさせられ、ストレスが弥が上にも溜まっていくはずだ。正直言って、バーカーファン以外にはオススメできない。

2007年11月3日 記

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