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Assassin's Creed(2008-UbiSoft)
主人公は暗殺者アルタイルではなくて・・・
思いもよらないシナリオ展開

家庭用ゲーム機ではミリオンヒットを軽く飛ばし、好評で迎えられたアサシンクリード。群集を活用した新しい隠密「ソーシャルステルス」、大シリア地域を緻密に再現したビジュアルなど、次世代の空気を匂わせた宣伝効果は十分にあったようだ。Ubisoftにとってはプリンス・オブ・ペルシャ、スプリンターセルに続く看板タイトルと言っても過言ではない成功ぶりである。PCではDX10に対応し、幾つかの追加要素を含んだディレクターズカット版が遅ればせながら2008年4月に発売されることとなった。

アサシンクリードの主人公は暗殺教団の若きエリート「アルタイル」。アルタイルは任務中に致命的なミスを犯したことから地位を剥奪され、危うく処刑されてしまうところでマスターの温情を受け、再び地位を取り戻そうとする。これが大元のストーリー。本作は12世紀の大シリア地域を舞台にした暗殺集団のお話である…かと思いきや、実はかなり違う。

これは冒頭から明かされるのでネタバレさせてもらうが、現実の世界は12世紀ではなく、21世紀の現代が舞台。この時代には遺伝子から前世の記憶を読み出し、仮想世界としてシミュレーション出来る技術が完成しており、アルタイルの世界はデズモンドという青年の前世。アルタイルの記憶には重要な秘密が眠っており、それを発掘する為に追体験していくのが本当の話。

公式HP等やメディアでは隠すかのようになぜかこの設定については触れられていない。恐らくプレイヤーの大半が知る由もなかったはず。いきなりこんなトンデモ設定をゲーム開始直後に押し付けてくるのだから面食らってしまう。孤高の暗殺者に成りきれると思っていたら、初っ端から話は全然違う方向へと転んでいく。いいサプライズだったら歓迎していたが、これは頂けない。誰がオカルトSFだと想像できただろう。プレイ中は常にメタ的な茶々が入れられ、「これはあくまで仮想世界の出来事」と冷水を浴びせるデリカシーの無さが付きまとう。せっかくの雰囲気はブチ壊しにされ、アルタイルに移入することもままならない。

助手のルーシー。デズモンドに対して優しい
シナリオはアルタイル、デズモンドの二重構造で展開していき、秘密が徐々に明らかになっていく過程は引き込まれる。アサシンとしての信条を守り、次々と暗殺を実行していくアルタイルの描写からは暗殺者気分を味わえよう。

しかしながら、結末はあまりにもお粗末だ。これまで行ってきた暗殺は幼稚な理由によって成されたもので動機付けとしてはイマイチ弱いばかりか、黒幕の存在はありきたり過ぎて驚きもない。トンデモ設定をまたもや挿入して、むりやり終結させようとしているのも白けてしまう。アルタイルに関しては一応終結しているものの、デズモンドの話はこれからという時にぶつ切りで終わらせており、中途半端さが否めない。

期待外れのステルスアクション

舞台の中心となる3つの街(アッカ、ダマスカス、エルサレム)は道で繋がれたハブ構造で行き来できる。街全体が大きなアスレチックのようで、アルタイルはあらゆるところを登れる。遠景がハッタリやごまかしではなく、実際に到達可能なのだ。高所から街を一望した時の光景は感動する。操作は半自動化されており、簡潔に様々なアクションが行え、タイミングや複雑なアクションは必要としない。

キャラクターのアニメーションは大変滑らかで、ゲーム特有のぎこちなさを与えず、もっともらしい人間の行動に見えて、存在感がある。様々な動作がスムーズに繋がっていき、不自然さがない。特に、アルタイルは主人公らしく素晴らしい手の凝りようだ。人を掻き分けるアクションの自然さは特筆すべきものがある。

街はかなり広く、リアルな街並を再現しており、臨場感は高い。それに貢献しているのは行き交う人々、すなわち群集の効果が大きい。おっさん、ばあちゃん、殉教者、衛兵、ごろつき、乞食、キ○ガイなどが常に行動し、街の生活感を演出している。集まった人数は数十人近くても、フレームレートはさほど変化しない優秀なエンジンによってプレイも至って快適である。

人々はプレイヤーが奇行をすると注目し、「あの人、変だわ」と噂を立て始める。殺人がバレたり、奇行が目に付きすぎると騒ぎは大きくなり、人々はクモの子を散らすかのように逃げ惑う。一方、衛兵は執拗にプレイヤーを追いかけてくる。そうなるとマップ全体を活かした壮大な追いかけっこの始まりだ。音楽が突然急転して、場面はスリリングな逃走劇へと変化する。屋根に上ったとしても、衛兵たちは追いかけてくるため、確実にまかなければならない。隠れる方法にはベンチに座る、殉教者に混じる、リアカー&小屋に隠れるなどがある。もちろん、真正面から戦う方法も用意されている。

おっとっと・・・
ゲームの進行は街へ着いたら情報収集して、ボスを暗殺するのが基本的な流れ。情報収集は街に居るNPCから行う。種類は護衛、スリ、盗み聞き、暗殺、情報を力ずくで吐かせるなどがある。情報収集を終えると暗殺教団から指示を出され、ボス暗殺を実行出来るようになる。

以上が大まかなゲームシステムだ。しかし、どうしてこうなってしまうのかと失望するほど出来上がったものは杜撰である。

広々とした街並には同じ風景が並ぶだけで違いもなければ遊べる要素も皆無。マップ上には旗が散らばっており、旗集めの要素があるがこれだけでは街を探索する魅力に乏しい。高台に登るのも上キーを押し続けていればいいだけ。お手軽にアクションをこなせるのは爽快感があるが、頭を捻る箇所が用意されていないがために達成感が薄い。

情報収集は初めこそ楽しいが、次第に同じことの繰り返しで退屈してくる。単純作業のセットを8回も行わなければならず、内容も難易度もあまり変化しないまま、最後まで一本調子で突き進むのには呆れ果てる。ゲーム進行が完全にワンパターン化されており、メリハリを付けようという努力が一切見られない。あまりに退屈な単純作業の連続に、後半は眠気を催さざるを得ない。

ボス戦にしてもパターン化されてしまっており、しかも完全な暗殺が不可能と来ている。ボスを倒すと必ず衛兵に追っかけられる茶番に入り、見つからずに去っていくような華麗な暗殺は出来ない。暗殺者と聞いて呆れる展開が繰り広げられる。フリーランニングは一つの逃走方法として用意しておくのは間違いではないだろうが、それだけを押し付けるのは完全に誤りだ。それに加え、後半はチャンバラを余儀なくされる展開の連続で別ゲームと化している。また、ボスを倒す方法が多様性に乏しく、ワンパターン化に拍車を掛けており、難易度に締まりのない緩さが単調さを生んでいる一因だろう。

ソーシャルステルスの概念は前情報とはニュアンスが異なっている。隠密出来る場所は限られており、群集が集まる場所が隠れ蓑になるような変化する状況に応じたステルスは用意されていない。あくまで定められた場所にしか隠れることは出来ず、こんなものが開発者の言っているソーシャルステルスの全貌ならば期待外れもいいとこだ。

アサシンクリードは優れた環境とアイデアを持っていながら、ゲームプレイへと結びつける事が出来ていなかった残念な作品だ。遊ぶ前は面白そうなアイデアと素晴らしいビジュアルにワクワクさせられたが、蓋を開けてみれば全く異なり、違う方向へと迷走していた。アイデアは思いついたとしても、実現出来ていなければ意味がない。せっかくの素材を活かすことなく、ことごとく殺してしまったのがアサシンクリードの反省点だろう。反省点を真摯に見つめなおし、前情報で謳っていた“多様なアサシネーション”や“ソーシャルステルス”を実現することが出来れば素晴らしい作品になる可能性を秘めている。残念ながら本作は思いついたアイデアをデモンストレーションした未完成な体験版に過ぎない。

チャンバラも上手いアルタイル。実はこっちの方が得意だったり
街の全てがフィールドとなる
高台に登ればイーグルダイブの出番
ベンチは隠れ場所の一つ
衛兵はしぶとく追っかけてくる
殉教者に混じるのも一つの方法
馬にも乗れるよ
百人に追跡されても大丈夫

最上級のビジュアルと未完成なゲームプレイが混載した迷作

ビジュアルは現行最上級で雰囲気の再現度も抜群に飛びぬけている。小気味良いアクションをお手軽に行えるため、アクションゲームが苦手な人でも気軽にプレイ出来るだろう。序盤こそ胸をときめかせる体験が味わえるはずだ。しかし、次第にマンネリなゲームプレイが目に付き、単純作業の繰り返しには退屈してくる。気が短いと最後の方は嫌気が差してくるに違いない。

面白そうなアイデアの片鱗は窺えるが、実には結びついていないのが惜しい。恐らく開発中であろう続編の体験版として、過度な期待をせずにプレイするのがベター。あくまで聖地巡礼、観光ゲームとして楽しもう。

2008年4月19日 記
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