FPS UnKnown

S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl

- 6年に渡る歳月。血と汗と涙と汁の結晶。

開発期間6年。例えば小学1年生なら中学生を迎えるお年頃、それは余りにも長過ぎた。DX9をフルフューチャーした次世代グラフィックと大風呂敷広げた革新的なシステムを引っさげ、我々の前に現れたのは2003年。既にほぼ完成し、発売真近とされていたのは2004年のことだった。そして、延期のスパイラルが始まる。大作ラッシュを避け延期、システムの開発に困難を極め延期、販売元のTHQとトラブルを起こして延期…。

めでたくDuke4と同じく「When it's Done」の称号を手にし、延期の発表をすることが意義と成り代わり、発表当時は期待していた多くの人々の興味も覚めてしまった2007年頃。長く続く忍耐にようやく終止符が打たれることになる。人々は半信半疑ながらも、2007年3月に無事ゴールド宣言、そして3月22に発売を迎えることとなった。

ジャッジは一先ず置いといて、何はともあれ「GSC Game World」お疲れさま。
そして、期待に胸を膨らませ続けた、あなたたちにもお疲れさま。
ウォッカとレザージャケットとボルトを用意出来ましたか?
では、早速Zoneの未開の地へ。

- Zoneの先で眠る者。伏線をきちんと回収した優秀なシナリオ。

腕に刻まれたSTALKERの意味とは。
死体回収車に運ばれ、荒野に遺棄された一人の男。とあるSTALKERに発見されたことで、なんとか命拾いをした「Marked One」と名付けられる記憶喪失の男が主人公。数々の依頼を受けながら、Zoneを生み出した元凶である中心地の原子力発電所を目指していく。そこに在るとされている真実を探し求めて。

うまくエンディングに到達することが出来ればあなたの正体も明らかになる。それは意外性を十分に伴って。FPSのシナリオとして見れば、しっかり筋書きが通っており、FPSのシナリオに常に不満を覚えている人にとっても満足出来る内容だと言っていいだろう。

本作はタルコフスキーの映画版を色んな面で意識していると思われる。映画版は作家、教授、ストーカー(案内者)の三人から描かれる。不可思議なことが起こる危険な区域「Zone」。Zoneの深部には「ルーム」があり、そこに到達できたものは夢が叶うと噂されている。唯一、その場所を知っているストーカーに作家と教授は案内して欲しいと哀願する。3人の前には数々の障害が立ちふさがり、追い込まれた各々は心理を吐露し始めるが結論には至らない。やがて「ルーム」の前に到着した3人だが、「ルーム」に立ち入ることは誰もが拒んだ。夢や理想の本当の姿を見ることに畏怖を感じたからだ。「ルーム」はシュレディンガーの猫のような量子的存在として描かれ、3人の男の本性を映し出す舞台装置として機能している。

カタフトロフィ前夜。示唆しているものとは。

ゲームで記憶喪失の設定にしたのは主人公とプレイヤーの位置関係を近似にする為だろう。STALKERは「あなたの本当の姿を映し出す鏡」として意識して作られたのではないかと思われる。あなたはプレイをする上で選択肢を迫られ、いくつかの勢力に加担しながら生き延びていく。ライフシミュレーションのシステムが開発陣が謳っていた通りに機能しているとは言い難いものの、閉鎖的で終末論的な異様な世界で生死を賭けたサバイバルを通じて、あなたの本性の一面が多少なりとも浮き彫りにされていく。落ちている物を全て拾う金の亡者、全ての勢力ともうまく渡り合おうとするコウモリのような八方美人、出てくるものは全て皆殺しにする破綻者…。プレイを通じて垣間見えてくる本質。
なにより主人公はゼロの状態なので、余計な設定が没入を拒むことはない。個性の強いNPCの登場は無く、展開は淡々と進んでいく感が強いが、逆にそういう要素を取り入れなかったからこそ、違和感や差異を生まずにプレイヤーは世界から剥離することもない。素直にチェルノブイリの異質な世界へと没頭することが許される。
あなたがMAD MAXやShadow Runのような荒廃したカタストロフ的な世界が好きなら…
是非、このイカれた世界へ訪れて欲しい。そして、Zoneの先に在る貴方だけの真実を見つけて頂きたい。

- ライフシミュレーション…開かれた大風呂敷とバランス調整不足。

Zoneは1km四方のエリアが複数合わさり、形成されている。他のエリアへはどこからでもアクセスできるわけではなく、金網や高放射能が障害物として遮り、定められた箇所からしか行き来ができない。Zoneには様々な派閥が生活しているが、開発者が謡っていたNPC一人一人が独自に行動するというライフシミュレーションの要素は期待値の半分くらいを満たしていると言った方がいいだろう。
徘徊するように設定されていると思われる敵対しているNPC達が出くわし、突然ドンパチを繰り広げたり、大量の動物と孤軍奮闘していたりと、その時々で異なるシチュエーションを見かけ、世界が生きていると感じられた部分もあったが、キャンプ(アジト)でNPC達のほとんどは昼夜、晴雨など関係なく、ずっとギターを引き語っていたり、同じ場所に留まっており、生活観がまるで感じられないところもあり、一長一短。せめて衣食住のルーチンは組み込んで欲しかったところだ。

ストーリー進行の為のメインクエストの他に、各NPCからサブクエストを受けることもできる。ただ、サブクエストの内容はどれも似通ったものばかりであり、派閥の間に挟まって選択を迫られるイベントなどはなく、楽しみはあまり見出せない。メインクエストの途中に、あくまで副次的に進めていく内容である。クエストをクリアする度にお金を得られるが、経済システムは機能しているとは言い難い。各NPCとは取引ができるものの、一般人は何も持っていないことが多く、トレーダーにしても良い装備を持ち合わせていることがほとんどない。物価と品揃えのバランスが取れていれば、より魅力的になったかもしれないと思うと残念である。※注記:後日のパッチである程度、修正されているようである。

襲われようと知らぬ存ぜぬ見て見ぬ振り!
延々と暖を取る人々。寒がりさん?

- サバイバルを生き残れ。意外にも良く出来た銃撃戦。

アイテム管理は重要です。

銃撃戦においてのAIは予想以上の出来。草むらに身をしっかり隠せば、見失うなど自然な一面を持ち合わせ、同じ場所には留まらずに危ないと感じたら回避行動を取りながら裏から回ってきたり、時にはアグレッシブに的確に攻めてきたりと状況判断に優れており、Far CryやFEARを超えたとは言わないが、匹敵するポテンシャルを持ち合わせている。個人的に予想を大きく超えて驚かされた部分である。廃墟が広がる世界に乗じて、神経を使うサバイバル戦を十二分に味わえることだろう。

武器はハンドガン、ショットガン、アサルトライフルなど、銃器の種類は他のFPSに比べれば多い方。サイレンサーやスコープを入手すれば、付属させることが可能。銃器によって、使える弾丸の種類が決まっているので(5.56、7.62、9mm等)、弾丸管理は非常に重要となる。アイテムを持てる重量は基本50Kg(スーツによっては増加)であり、60Kgまで超過できるが、それ以上になると移動が不可能。その地域で敵が使っている銃が、自分と異なる弾丸を使っている場合は補充が出来ないため、予め回復アイテムを少なめで弾丸を多く持つか、その場その場で銃を切り替えて使っていくか考える必要がある。銃器は重い為、いくつも持つというわけにはいかない。この試行錯誤は自給自足のサバイバルを意識させて楽しく感じられる。
銃にはそれぞれ命中率、取り回し、ダメージ、連射速度のパラメータが用意されている。中には同じ銃器でもパラメータが高い物もあり、愛着を沸かせるかもしれない。

ボディーはダメだよ。ヘッド、ヘッド!
時にはNPCと行動。邪魔になったら裏切っちゃえ。

- 雰囲気十分に描かれた異質な世界。

大幅に遅れてしまった分、グラフィックのインパクトには欠けてしまっているが、一線を越えてしまった領域「Zone」の異様な雰囲気は真に伝わる鬼気迫るものを孕んでいる。ゲーム世界に引き込む没入力はとにかく凄まじい。虚無、寂寥感が伝わる放棄された重工場跡、時間が永遠に止まったような荒廃した街、何者かが蠢く地下施設は、その筋の世界が好きな人には涎物。まさに終末世界の光景である。晴天、雷雨とリアルタイムに切り替わる気候がよりリアリティを引き出し、あたかもそこに自分がいるかのような、本当にこんな世界がどこかにあるような錯覚を与える。心理的に効いてくる恐怖感を感じるところもあるので、苦手な方はご注意を。

忘れ去られた土地。こういうのって萌え。
怖いっス。カオスっス。

- 長く待たせた甲斐はあった、一石を投じる野心作。

永きに渡る6年の歳月から生まれた結晶「STALKER」。写実的に目指したグラフィックは異質な空間を作り出しており、廃墟を探索する際はドキドキワクワクと好奇心をくすぐり、地下室の探検の際は恐々とさせるものがあった。「Zone」で過ごした十数時間は異様な体験として心に強く残っている。
ライフシミュレーションの要素はやはり期待通りとはいかなかったが、銃撃戦に関してはよく出来ており、確固に構築された「Zone」の世界と相まって、サバイバルゲーム的な感覚を強く呼び起こしてくれた。AIが賢いとシューティングゲームはそれだけで大幅に豊かになる。

半ノンリニアの世界で自給自足の生き残り戦を味わいたい方、廃墟を探索するのがなにより好きな方、一風変わった独特なベクトルを走る可能性の感じられるFPSをやってみたいという、そんな方(どんな方)にオススメしておこう。

要望として。バランス調整不足の面が目立つので、早々にSDKを公開して欲しい限り。例えばノンリニア系RPGの「Morrowind」や「Oblivion」はユーザーによって世界が拡張・修正され、より良いゲームに近づいていった経緯がある(現在進行中)。STALKERもそれと同じく、ユーザー側で不満点の修正を施していけば、完成度は高まっていくはず。その可能性が感じられる惜しい点が非常に多い。開発元はバグ取りだけに専念して頂き、細かな調整はユーザーに委ねて欲しい。

最後は兵器総動員。無茶苦茶でござる。
ライフシム効果。美味しいですか?

□Link
- STALKER
- STALKER Files

2007.3.28 記

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