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Resident Evil 4(2007-Capcom)

■革新したシステムが新たなサバイバルホラーを生み出す

ボス戦は燃える!「イエスタ、モエレー、モエレー」
思わぬものがヒットして、社会現象にまで発展し、一大ムーブメントを築くというのは割合よく聞く話。なにが当たって、ハズレるのか皆目見当つかない世の中だ。今思い返せばどうでもいいようなものが何百万個も売れ、果てには供給を満たしすぎて在庫が溢れて赤字を生むなんてこともざら。「こんなこともあったよね」と良き想い出の残滓として人々の胸に残り続け、時々苦笑いしながら追憶を思いしのぶのもまた一興である。

一度ヒット作が生まれれば、二匹目のドジョウを狙うが如く、次に繋がるものを作るのはクリエイターとして当たり前の行為だ。利益の為、そして支持してくれるファンの為。今日あらゆるところで続編物が製作されている。処女作だけが大ヒットして、後は鳴かず飛ばずの一発屋もあれば、積み重ねる毎に面白さを増していく名作もある。そういった続編物はネームバリューという付加価値を得ると共に必然的に宿命を背負わされる。いつまでも変わり続けることのない普遍的な面白さを追求しつつ、その中で新しいものを提供し、如何にしてマンネリ化を防ぐかという使命だ。シリーズを続ければ続けるほど更に要求されるハードルが高くなり、重圧は増していく。しかし、元のスタンスから変更し過ぎれば、「本質を見失った!」と非難され、逆にほとんど変わりがなければ「変わり映えしない!」と批判され、注文の多いお客様を満たすのはなかなか難しい問題なのである。しかも、一度ケチが付き始めると、凋落を止めることもままならない為、半端なものを出せるわけがない。続編の呪縛に頭を悩ませれば、悩ませるほど、ただ時間だけが無常にも過ぎていく。

Resident Evil(以下RE)。もともとこのシリーズは黒沢清監督の映画「スウィートホーム」をゲーム化した同名アドベンチャーRPGのゲーム性を、アローン・イン・ザ・ダークのフォーマットに当てはめたものが基盤となっている。一作目のRE 1では洋館が舞台となり、仲間と協力しながらパズルを解き、襲ってくるゾンビと戦うというコンセプトはスウィートホームを想起させる内容だった。

アイデア自体は流用ではあるが、二番煎じであることはさして問題ではない。例え優れたアイデアであろうと、表現の方法が稚拙であれば本末転倒に成りかねず、大衆向けのエンターテイメントではアイデアをゲームとして破綻無く組み立てる構築力の方が重要とされるからだ。そのアドベンチャーゲームとして堅実とした作りが開発したカプコンの予想を良い意味で大きく裏切ってスマッシュヒットを飛ばし、いまや看板タイトルを担う重要なシリーズとなっているのは周知の事実であろう。その後、RE 2、3、0と次々に続編が発表され、シリーズものの宿命を背負いながらも常に売り上げを重ねてきた。しかし、次第に漂い始める閉塞的なマンネリを避けられようもなくREもまた変革の岐路に立たされる事になる。もちろんそこには、クリエイターとしての意地と次世代機のポテンシャルを活かしたいというハングリー精神があったのであろう。ヒットしたのを良い事に、あぐらを掻いて信者を食い物にする、そこらの精神の腐った殿様とは大違いなのは明白である。

レオンさん。甘いマスクに腐女子歓喜。UNKさんもメロメロ
そしていくつかのリテイクを経て、新生と呼ぶべきRE 4が誕生する。世界観はシリーズを引き継いだものとなり、RE 2で登場したレオンが本作の主人公となっているが、これまでのテーマであった人間をゾンビ化させるというT-ウイルスから今度は得体の知れない寄生虫に変わり、生きた人間達が敵となる。

シナリオとしては相変わらず家庭用ゲームによく見られるライターの手癖が発揮されている。格好を付けて言えばジュブナイル。ぶちあけて言えば、受け売りをなんでも使いたがる多感な中学生がチラシの裏に描いたような絵空事が当然のように展開していき、既視感がプレイヤーを襲う。どこかで見た光景、どこかで聞いた台詞の数々に寒気を覚えて鳥肌が立ち、記憶の断片が走馬灯のように頭の中をかけ巡る。そして致命的にダメな点は、それらをパロディーとして扱い、高等なメタや自己主張を繰り広げるのではなく、単に真似てコピー&ペーストで作ったようなエンターテイメントの枠に収まり、オリジナリティが感じれられないところにある。ただ、カプコンが素晴らしいのはそれを厚顔無恥にやりきること。その羞恥心の恥じらいもない潔さはもはや尊敬に値し、これはそういうものなのだと何れ肯定させられてしまう。この点さえ生暖かい目で理解してあげれば、ベタをベタで地を行く定石過ぎる流れも一貫としていて、逆に清々しさを感じられるかもしれない。保証はしないが。

今回からゲーム性に大きくメスを入れられることになった。それまでの伝統であったアローン・イン・ザ・ダーク式の定点カメラアングルから、常にキャラの後方からとなるビハインドビューを採用。シューティングはオートエイムからマニュアル操作に変わり、傍目から見ればこれまでのシリーズとは異なる印象を受けるゲームに仕上がっている。

正確な銃撃が要求される。でも実は頭が弱点じゃないんだ
宗教法人の信者にはお布施を要求されるぞ。気をつけろ!
REと言えば「う~う~」と唸り声を挙げながら緩慢な動きで襲ってくるゾンビが代名詞。じわりじわりとにじり寄ってくる恐怖に慄くのが醍醐味であった(クリーチャー相手では例外ももちろんあるが)。しかし、今回から敵は知能のある人間となり、ゲーム性も一新した為、過去のセオリーは通らない。敵は発見すると共に、大声で仲間に知らせ、こちらに走って駆け寄ってくる。近距離に達すると歩みがゆっくりとなり、じわりじわりと近付いてくるのが基本的な流れだ。ゆえに大量に迫られるに連れてジリ損を味わう羽目になる。そこで、いかに距離を稼ぎながら対処していくかを要求されるのだが、レーザーで示される照準は性能の悪いハンドガンだとブレが激しく、致命傷を与えるヘッドショットを狙うのは容易ではない。限られた弾薬を無駄にしない為にギリギリの距離まで近付かせて確実に一発を決めなければならない。だが、そこで誤ってミスショットをすれば、銃を構えると移動出来ないという仕様により攻撃を避けられない可能性が高くなる。以上のジレンマの中でスリリングな駆け引きを味わえるのがこのゲームの最大のキモとなる。

この点はオートエイムだった前作では得られない要素だ。また、ビハインドビューの効果で主人公との一体感が高まり、臨場感が増しているのも本作ならではで、視点はビハインドビューとは謳っているがショルダービューとの中間に近く、TPSのような自在な視点変更やストレイフ(横平行)移動が出来ないために、敵の声は聞こえているがどこに居るのか分からない恐怖感があり、横を向いたらすぐ傍に居た!なんて、旧来の視点では無かったサプライズも起こる得る。
音質のクオリティは銃声にしても、足音一つにしても耳触りの良い本物のような表現をしていて恐怖感を煽る。しかし、ベタ移植なせいかEAXなんてまるでアウトオブ眼中なまでに定位感が無く、ヘッドフォンの右から聞こえたが、音の発生源は左に存在する事もしばしばあるのだが、本作に限って言うと逆にそれが位置を掴めない恐怖感として良い方向に働いていて、開発者が意図しているのかは定かではないが思わぬ効果を生んでいる。「ガサガサ」と足音が聞こえても、ドコに居るのか分からない恐怖。FPSではサウンドカードまで購入して、敵の位置を知るのにやっきになるものだが、逆転の発想としてホラーゲームではこういう使い方もあるのだと感心させられた。

とは言うものの、ホラーゲームテイストは序盤のほんの前哨戦だけに過ぎない。ゲームのセオリーを理解し、強い銃器を手に入れ、弾薬や回復アイテムが余り始めれば、そこからはプレイヤーのキリングタイムの幕開けだ。「こっちへ来るな~」という恐怖が、「もっと近付いて来い。肉片に変えてやる」という快感に変化する時、シューティングゲーム然としたカタルシスが頭角を現す。アドベンチャーゲームを求めているファンにとっては辛い変更と言えなくもないが、いちシューティングファンとしては新たなファンを開拓しようという点には好感を抱く。なにより普段FPSばかりをプレイしていると、どうしてもTPSのシューティングは浅く感じてしまうのだが、RE4は独自のスタイルできちんとシューティングゲームとして仕上げていて、実に小憎い。ハイペース←→スローペースに目まぐるしく変わる状況と、敵に囲まれた時の素早い判断を迫られる駆け引きは単純ながらも面白い。敵の攻撃方法やパターンは限られたものだが、その一つ一つをしっかり作り込んでいるお陰でゲーム性を豊かにさせている。

関節痛で痛がっているんじゃないぞ
ワイは鬼や!キックの鬼や!
適当にやっていても解けるから、安心するんだ。
例えば敵のヒットゾーンは部位毎に細かく分かれており、頭を撃てば手で顔を押さえながらよろけ、足を狙えば跪づいたりと被弾アニメーションも多岐に用意されている。手を撃って武器を落としたり、握っているダイナマイトだけ撃って暴発を起こさせることも可能だ。こういったダメージ判定による遊びを入れているゲームも珍しく、戦略性に昇華させているのは流石である。また、敵がよろけている間だけは特定のアクションを起こすことが可能で、アクションボタンを押せばキックやバックドロップを決めることが出来る。言わば限られた状態での必殺技。見ためにも爽快、緊急回避にもなり、かつ弾薬の消費を抑えられるのでついつい狙いたくなるのだが、敵がよろけてスキを見せている間は僅かで、タイミングを逃せば攻撃を受ける可能性があり、間合いの見極めも重要となる。ヘッドショットして、キックを決めてやろうとダッシュで近付いたら既に遅し。普通に撃って倒せば良かった!と後悔することも序盤ではよくある話。もちろんタイミングさえ掴んでしまえばこちらのターンが訪れる。

敵の特徴を明確に表しているお陰で、「敵を倒した!」と強く実感できるのもこのゲームの優れた点である。物事には定石というものがあり、多かれ少なかれアクションゲームにしても、アドベンチャーゲームにしてもパズル性を持っている。横着に言えばシューティングゲームの銃撃戦で「相手を負かす」という行為もパズルの延長線上に過ぎない。ゲームという媒体では必ず勝ちパターンが存在し、その中には答えを解いても、実感が伝わりにくいゲームもあれば、伝わりやすいゲームもある。RE 4は後者タイプで、敵との戦闘に関して解法を思索する楽しさを明確に用意している。「この敵はこういう攻撃方法をしてきて、あそこが弱点だから、こう攻撃していけばいいんだ!」と戦闘を通じてプレイヤーが答えを導き出す事によってノーダメージであったり、短時間で決着がつくと言った結果が分かり易く付随してくるのだ。この試行錯誤は楽しい。

そしてラーニングカーブのバランスも絶妙である。ゲームを続ければ、パターンを完全に掴んでしまい、簡単になって手応えが無くなり、単調に感じてくるのはよく起きる現象。そこで敵を増やしたり、新しい敵を登場させて変化を与えようとするのだが、なかなか上手くいかないのが現実で、洋ゲーではラストにつれて理不尽な難易度になってしまうことがよくある。RE 4はここのバランス取りが実に上手く、敵に見慣れてきたと思えば、新しい敵や強力なボスが登場し、新しい戦闘展開がプレイヤーの集中力を長続きさせる。丁度良い間隔で新しい物を投入してきて、飽きがこない。さじ加減が巧みで、美しい山と谷のラーニングカーブを描いている。

本来アドベンチャーゲームであったこのシリーズ。本作でもパズル要素が用意されている。元々パズルの難易度はそれほど高くないのだが、今回は更に難易度が下がっている。カンニングしたり、頭を捻らずとも直ぐに解けるものが占めているのだが、だからと言って悪いわけではない。戦闘の合間の小休止としてうまく働いており、行ったり来たりを繰り返す冗長なパズルが無くなったのも良き改善点である。極力迷わないレベル構造になっているのも私の様な空間把握能力に欠けた方向音痴さんにとっては有り難い。部屋や通路のそこかしこにアイテムをシークレット的に隠すことで、プレイヤーが隅々まで探索したくなる様にマップが作り込まれている点も丁寧な仕事だ。勤勉なプレイヤーに対してきちんとご褒美を与える点は他のメーカーも見習ってもらいたい。他のゲームでは意味のない部屋、意味のない通路がいかに多いことか。無意味なダクト通りゲームが蔓延っている洋ゲーメーカーには特に猛省願いたいものである。

大統領の娘だからって胸の大きさは関係ないんだ。でもUNKさんはひんぬーもとい愛板の方が好き…いや!どっちも好きだ!
回復アイテムを温存してたら、ラスボスで有り余るなんて事に成りかねないから、適当に売ったり、使うんだ。
アイツはヤバイ。見るからにヤバイ。
思わぬところにアイテムが隠されているんだ。
カットシーンでもボタンアクションを要求されるから気をつけろ!でも、難しすぎて、一人で泣いてたのはここだけの秘密だ。
商人さん。武器を買ったり、改造出来るぞ。カオスな廃村の中でここが一番癒される空間なんだ。
クリアするとエイダさんのシナリオがプレイ出来るぞ。でも、あんまり面白く…そんな事言っちゃダメだ。ゼッタイダメ!
アシュリーを操作する時だけ、視点が旧来のものに戻るぞ。別名:パン○ロゾーン。ちなみに平和の象徴の白色だ。



■シナリオ以外は一級品。今すぐプレイすべし。

実によく出来たアクションゲームである。隅から隅まで丁寧に作られていて、適当な仕事は一切見られない。今からプレイしても遅くはない。是非プレイすべき。残る課題はAにもBにも成れない中途半端なシナリオだけ。開発者の中に誰か異を唱える者はいなかったのかと悔やまれる。調べてみると、どうやらディレクター自らが実権を握っていたようで、これはどうしようもなかったのかもしれない。偉い人はもう少し殊勝になって、周りの者の声に耳を傾けた方が良いとこの場でささやかに囁いておくことにしよう。ビバ邪気眼。

2007年6月30日 記

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biohazard 4

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