■本質を見失った時代の流れに対するアンチテーゼ
ファーストパーソン・シューティングゲームの歴史を語る上で欠かせない存在であるDOOM。登場した時点で既に高い完成度を誇っていたのは今更語らずとも周知の事実であろう。DOOMによって確立されたファーストパーソン・シューティングゲームの基盤はフォロワー達によって、様々な手が加えられ、数え切れない変革を遂げてきた。机上の空論から戦略性を紡ぎ出すプランニングやスカッド要素、ゲームを始めればノンストップで流れるストーリー展開、まるで戦場に居るかのようなド派手な演出。FPSはそれらを意欲的に吸収し、誰もが豊かに繁栄していくと思っていた。
しかし昨今のFPSは悲しい現実を言えば楽しいものではなくなりつつある。火急の勢いで流されるまま誇大していった結果、路頭に迷い、本質を見失しないかけている。肥大化した事によって、整っていた外形は歪み、キャパシティを超えた自重を支えきれずに悲鳴を上げているのだ。時代の流れに飲まれたゆとりのある親達はFPSを甘やかして育てた。その行為はFPSの為にはならずに本来持っているはずの尊厳を失わせ、牙を抜かれた悪質な腑抜けが蔓延る世の中へと変えてしまった。きっと良くなるハズだ!と理想の姿を夢見てFPSを育てた盲目的な親達はかけ離れた現実に至った理由も分からずに途方に暮れ、状況は悪化の一途を辿っている。
そんな最中、ポーランドから彗星の如く登場したPeople Can Flyの「Painkiller」はこの危機的な状況を打開する力を持ったFPSだ。彼らが目指したのは移り行く時代の流れに淘汰されてしまった残滓、人々が忘れかけたFPSの境地である。最新の技術を武器にクラシックスタイルを再現した原点回帰作品であり、改めてFPSの魅力とは何かを再認識させてくれる純然たるシューティングゲームだ。マップを駆け回りながら、ショットガンやロケットランチャーを振り回し、わらわらと迫ってくる敵の群集を相手に一人孤軍奮闘する。そこには映画的な演出や展開は存在しない。存在するのは臨場感の高い空間で大量の敵と戦う爽快感、未来永劫変わることのない普遍的なシューティングの楽しさ。FPSが隆盛を極めた頃、皆が夢中になって遊んだオールドスクールの輝かしい栄光。Painkillerは激しい市場の流れの中で次第に剥離していく本質を遡及し、追求したオーセンティックなFPSなのだ。
■Doom~Quake、idの源流を継ぐ正当後継者
雨が降り、雷鳴が轟く夜。ダニエルは車に愛する妻を乗せ、二人きりのドライブを楽しんでいた。だが、ふと目を離した隙に大型トラックが車線を超え、ダニエル達が乗っている車と正面衝突。車は物の見事に大破し、二人は息絶える。死亡したダニエルが目覚めた場所は地獄とも天国とも似つかない場所“煉獄”。ダニエルの前に現れた天使によると、地獄の眷属が侵攻を目論んでおり、天国への扉は堅く閉ざされている状態。一足早く天国へと迎えられた妻と会う為には、悪魔を根絶やしにしなくてはならないという。そこで常人とは異なるイレギュラーな魂を持つダニエルに白羽の矢が立てられた。ダニエルは愛する妻にもう一度会う為に仕方なく立ち上がる。たった一人の孤独な戦争の始まり―――。
これが大まかなストーリーライン。チャプター毎にプリレンダムービーが挿入され、ストーリーは進行していくが、昨今のFPSのように台詞や身振り手振りを観察し、ゲームの展開を必死に追う必要性はあまりない。あくまでも何故戦っているのかの説明に過ぎず、天国や地獄よりも地上に近い場所“煉獄”で彷徨う悪霊達の魂を浄化する。ただそれだけに過ぎない。後はプレイヤー自身がダニエルとなり、敵を葬っていくだけだ。
主人公の転換。左から開発初期、製品版Painkiller、拡張版BOOH。本編PKとBOOHでもディティールが異なる。 |
ゲームの進行は大量に押し寄せる敵を倒し、開いていく扉を進みながらゴールを目指していく流れ。時代を逆行するようなクラシックなスタイルを強襲している。わらわらと登場する敵との攻防はDoomの影響が窺え、アクセルジャンプを使用しながら高速で繰り広げられるゲーム展開はQuakeを彷彿とさせる。FPSの礎を築いた両者の遺伝子を濃く受継いでいる印象だ。キー探しやパズル要素でマップ内をうろうろする必要はほとんどなく、チェックポイントを通過していけばいい点はDoomやQuakeよりも遡ったよりアーケードな位置に属するかもしれない。プレイヤーは一心に向かってくる敵の猛攻を回避しながら、攻撃を叩き込むことに専念すればいいのだ。
基本的に敵は翻弄するような動きをせず、直行してくる点は画一的だが、それぞれ異なる攻撃方法を持っており、対処方法を考えながら立ち回る必要がある。Quakeのような左右の慣性を利用しながら速度を稼ぐアクセルジャンプ(バニーホップ)と違って、Painkillerは移動キーを押しながらジャンプをタイミングよく押せばすぐに最高速に達し、スピードが維持される扱いやすい仕様なので、これを活用しながら戦っていくのがベストだ。二つの攻撃方法を持つ武器…「ロケットランチャーとガトリングガン」、「ショットガンと冷凍弾」、「手裏剣と電撃」、「杭とグレネードランチャー」のプライマリとセカンダリをうまく使い分ければ戦況はグッと楽になるだろう。3つの刃が回転する初期武器「ペインキラー」で敵に突撃して、挽肉に変えるのもいい。敵はとにかく沢山現れ、弾薬は豊富に入手出来るので貴方なりに料理して頂きたい。
●Soul |
●Daemon Mode |
敵を倒せば緑色の魂に変わる。ライフが1回復するので消える前になるべく回収しよう。 | Soulを66個入手することで、一時的に無敵状態になる。思う存分、敵を粉砕するべし。 |
●大量の敵 |
●Boss |
敵の量は一応限度は守られているが、画面を覆う程に大量に登場するところもある。バックステップのアクセルジャンプで距離を取りながら、攻撃していくといい。 | チャプター最後に巨大で迫力のあるボスとの戦いが用意されている。雑魚敵とは違い、ある手順を踏まないとダメージを与えることが出来ず、一筋縄にはいかないので注意だ。 |
■選択する楽しさ、強力なタロットカード
永続的に発揮するブラックカードと一時的に効果が現れるタロットカードが用意されており、マップにそれぞれ課せられた条件を満たすことで入手できる。
■敵を全て倒す
■ダメージを一度も受けてはいけない
■シークレットを全部発見する
■時間内にクリアする
など。やりこみ的な要素になっていて、戦闘に関連する条件は手応えを感じられ、良いアクセントとなっている。ただ、○○を全て集めろ&見つけろ系の条件は作業的に感じられ、面倒臭さが先に立つ。タロットカードはバレットタイムが使えたり、ダメージが軽減されたりとゲームの攻略的な部分に関わってくるものが多く、使いどころを考えて使用するのが楽しく魅力の一つとなっている。しかし、中には面倒だと考えて入手しない人もきっと居る筈であり、万人にこのゲームの魅力を100%伝えることが出来ないのは残念な点である。People Can Flyにはもう少しタロットカードのあり方を考えて欲しかったところだ。
何を使おうか、選択するのが楽しい。それ相応にゴールドが必要になるので、しっかり集めておこう。 | 曲芸的なジャンプアクションが必要になることも…。 |
■物理エンジンを最大限に活用。敵を吹き飛ばす爽快感!
2003年から2004年にかけて物理エンジンが脚光を浴び、最新テクノロジーを扱うFPSでは猫も杓子も物理エンジンといった感じでこぞって取り入れるようになった。だが、取り入れたのはいいものの、うまくゲーム性に昇華しているものはなく、ガタガタ動くオブジェクトが移動の障害となるだけのあくまでもテクノロジーデモ的な活かしきれない無駄な使用が目立ち、物理計算のせいでフレームレートは割かれ、失笑するようなラグドール効果によって本末転倒な結果に終わってしまっているのが現実であった。
そんな状況の中でPainkillerも物理エンジン「Havok」を取り入れている。しかし、Painkillerは他のFPSとは違い、物理効果をゲームの進行を妨げるだけの無用の長物には終わらせず、しっかりゲーム性に昇華させている。敵をショットガンの一撃やロケットランチャーの爆風で吹き飛ばしたり、杭で壁に張り付けにするのはとにかく見ていて爽快である。爆発物にも物理は適用されるので、コンボ的に爆発して敵を巻き込むような思わぬ効果を生み出すこともあって面白い。もちろん自分も巻き込まれることもあるので周りにはよく注意しよう。
■巨大で美麗なレベルデザイン、軽々と動作する優秀なグラフィックエンジン
駅、基地、墓場、城、工場、市街、教会、オペラハウスetc…24レベルに及ぶレベルデザインはオカルティックでダークな雰囲気を漂わせ、DOSゲー世代のFPSが持っていた独特の陰鬱な空気を孕んでいる。まるでその異様な雰囲気がこちらにビリビリ伝わってくるかのようだ。舞台となるマップはディティールに凝った美しい壮大な建築物が主となる。臨場感のズバ抜けた迫力満点の空間に思わず圧倒されてしまうだろう。何よりこれだけの物を軽く動作させているグラフィックエンジン「PAIN ENGINE」のポテンシャルの高さに驚かされる。
仰ぎ見るような巨大な構造が多く見られる。 | エフェクトやパーティクルが美しいのもPKの特徴だ。 |
■戦闘を盛り上げる鋼鉄魂の詰まったヘヴィメタル
Painkillerでは普段は恐怖心を煽るようなおどろおどろしいアンビエントミュージックが流れる。戦場には兵士達のシュプレヒコール。洋館では得体の知れない者の叫び声や囁きといったように。そして一度、敵が現れればそれを知らせるように重厚なヘヴィメタルが鳴り響くようになっており、このゲームにマッチした良い効果を生み出している。パワーメタル、デスメタル、スラッシュメタル、インダストリアルメタルが中心となり、プレイヤーの興奮を大幅に高めてくれる。疾走感溢れるリフと重い音圧によるタテノリがゲームとの一体感を生み出し、敵を倒す事に夢中にさせてくれるのだ。
ポーランドのHR/HMバンド「MECH」が手掛けるエンディングテーマ「Painkiller」はこのゲームを象徴するメタルに仕上がっている。エンディングを迎えたプレイヤーを余韻に浸らせてくれるだろう。
MECH。ボーカルの悪魔的な声質がPKに合っている。 |
■本編に負けず劣らず。拡張パック Battle Out of Hell
Painkillerは拡張パックとして「Battle Out of Hell」をリリースしており、本編の後日譚が描かれている。いわゆる拡張パックというと、金儲け心丸出しで本編使い回しの内容を一番先に想像するかもしれない。昨今では、拡張パックの言い方をエピソードゲームと称して、同じコンテンツを焼き直している会社もあるくらいだ。
ところがBattle Out of Hellは、そんなネガティブなイメージを吹き飛ばす内容となっている。レベルデザインは使い回しがほとんど見られず、むしろ本編よりも悪趣味全開(良い意味で)で突き抜けていると言ってもいい。特に痛々しい子供達が叫びながら襲ってくる修道院やサイケデリックな色使いの遊園地はまさに悪夢―ナイトメアであり、よくこんなものを作ったと素直に感心する。
難易度は遠距離攻撃と接近戦をしてくる敵を組み合わせて登場させたり、嫌らしい攻撃方法が増えており、本編よりも格段に上がっている。タロットカードを使用しなくては乗り越えるのも難しいところもあるくらいだ。本編でトラウマ難易度をクリアして、手緩いと思っていた人も満足できるだろう。
現在、本編と拡張パックがセットになったGold EditionやBlack Editionが販売されているので、それを購入するのが一番最適。本編だけ買うのは非常に勿体無い。
暗闇から現れる少女。微妙に可愛いから困る。 | 悪趣味極まりない遊園地。素敵です。 |
■何もかも忘れて純粋にシューティングに興じたい!そんな貴方にペインキラー
PainkillerはFPSの本質を追求したオールドスクールを地で行く古典的な作りのゲームである。FPSを好きで昔からプレイしているが、演出ばかりを重視し、肝心のシューティング性を蔑ろにしている最近のFPSを純粋に楽しめず、違和感を感じている方には是非とも遊んで欲しい一本である。PainkillerがFPSの楽しさとはなんだったのかを再認識させてくれるに違いない。今に疲れたのなら、たまには過去を振り返ってみるのも一興。回帰することの喜びがPainkillerには在る。
2007年5月21日 記