Nosferatu:The Wrath of Malachi
「 吸血鬼 」
その言葉から諸兄は何を想像するだろうか。
不死を渇望する醜い人間の終末、永久に愛を語らうロマンチスト?
或いは単純に畏怖の象徴かもしれない。
その萌芽がいつ芽生えたのかは知る由もないが、古くから語り継がれてきた伝承の生物「吸血鬼」は妄想豊かな人々の格好の材料として発育を繰り返し、今日に至っている。共通項が鋭く尖った八重歯だけだとしても、そんな事は瑣末な問題に過ぎない。人間の本質を表す際に便利な小道具として「吸血鬼」という題材は万能に役立ってきた。
ある時は屈強な孤高の魔物ハンター、またある時は恋に目覚めるお年頃、またある時はスレッジハンマーを振り回すロリ娘…限りない発想が多種多様に姿を変え、我々を楽しませる。
今回のNosferatuもまた吸血鬼を題材にしたFPSであるが、残念ながら主人公は吸血鬼ではなく、落ちぶれた名家の青年。吸血鬼の苦悩に苛まれたいという方にはBloodRayne、Vampire:The Masquerade Bloodlinesを薦めておく。
Nosferatuは一言で表すなら「兄ゲー」である。吸血鬼マラキに囚われた妹レベッカを救う為に立ち上がった兄ジェームスの孤軍奮闘劇。血の雨が降ろうが、魑魅魍魎が襲ってきようが、一縷の望みに賭けて愛する妹の為にお兄ちゃんは何度でも立ち向かっていく。喧々囂々と「妹、いもうと、イモウト」と連呼して止まない、そんな妹萌のオニイチャン達に打ってつけ。
ゲームの展開は、冒頭に流れるモノクロムービーよろしく古典的なホラー映画の雰囲気を模して作られている。普段はバックにおどろおどろしいアンビエントミュージックが流れ、不安感を募り、そして不意打ちを狙うようにして敵が天井や床を突き破って登場すると音楽もガラッと変わり、不協和音が緊迫感を煽っていく。
大袈裟に言えば、ホラー映画の登場人物達のように「ウワッー」と嬌声を上げ、逃げ惑う姿をそのまま体験させてくれるのだ。一人称である事をうまく利用した仕掛けに驚かされるのは悔しくも楽しく、怖いものみたさで先を進めたくなる求心力を孕んでいる。また敵の特徴をうまく見極めて、立ち回る戦闘はサバイバル然としていて、うまく恐怖感と緊張感が相互作用していると言っていいだろう。
ただし、その恐怖感も開始3時間位が限度で、人其々差があるだろうが、慣れが訪れてしまう。しかし、そこが欠点かと問われれば、そうではない。ここからが真の楽しみの始まりと言っていい。数時間プレイして、敵の特徴や動きを掴んだ貴方だけに訪れるキリングタイムの幕開け。セコイ銃なぞ使わず、剣を使った近接戦闘で華麗にヒット&アウェイの爽快感。猛攻を避け、一撃を叩き込む快感の世界が待っている。今こそゲームプレイの中で培われた経験が生かされる時なのだ。いちいち数値で示さなくとも実感できる成長。Nosferatuはレベルアップを肌を通じて体感させてくれる。
仲間を救出するシステムは途中でスタックしてイライラが募り、敵ならまだしもアイテムまでランダムに配置されるシステムはバランスの悪さを伴っているし、パニックホラーの要素も最後まで持続できていない。
だが、古城でサバイバルを生き残り、うまくなったと感じられるゲームプレイ感は、インタラクティブ性のあるムービーゲームと化している昨今のFPSとは一味違ったものが在する。かつて没頭したDOSゲーの様な古き良きオールドスクールな楽しさをNosferatuは思い出させてくれた。
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