■主人公だけ東洋人である必要性はプライスレス
極寒の地で熱い戦いを繰り広げるLost Planet |
突き詰めれば反復行動であるゲーム媒体で飽きを感じさせないようにするにはどうすればいいか。生きている人間がプレイするマルチであれば同じマップで同じゲーム内容であろうと新鮮さを得ることが出来るが、コンピュータ相手のシングルではそうもいかない。そこでゲームクリエイター達は常に新しい刺激を与えて変化を生むことで、プレイヤー達の飽きに対処しようとしてきた。操作キャラを変えたり、ゲーム性を変えたり、激しい銃撃戦の合間にアドベンチャー要素を挿入しながら。
しかし、その変化自体の出来が悪ければ、効果はマイナスにしかならないのは当然のことである。せっかく加えた変化も面白いものでなければ本末転倒に成りかねず、むしろ苦痛を与えてしまいかねない。また変化を与える頃合もゲームの魅力を十分に引き出して味わせた後、飽きを感じ始める一歩前が相応しい。ここの見極めが出来て始めて、飽きを負かしたと言えるのだ。だが、勝利したからと言ってそこで安心してはならない。なぜなら常に飽きへのカウントダウンは止まることなく、カウントゼロへと向かっているからだ。見せ掛けの勝利は延命処置に過ぎず、ゲームをクリアするその時まで飽くなき闘争が終わることはない。
コンシューマでヒットし、PCゲーム業界へ鳴り物入りしてやってきたLost Planet。次世代グラフィックを前面に押し出した宣伝文句通り、残念ながらグラフィック以外には見るべき所が無いゲームである。グラフィックはA級、ゲーム内容はB級のアンバランスさはあなたを幻滅とさせてくれるだろう。敢えてプレイするのならば止めはしないが、身を持って知らない方がいいことも世の中には沢山あることを覚えておいた方がいい。
このクオリティがリアルタイムで動くのは驚きLost Planet |
だが、Lost Planetに関わった数人のシナリオライターは、ストーリーを見るのが予備知識のないプレイヤーであることをすっかり忘れてしまっている。意識的にやっているのか、それともそんな基礎さえ理解していないのかは定かではないが、これが本作では大きな問題と化していて支離滅裂な展開を迎える羽目になっている。
感動的な名場面というのはそれまでのプロセスがあって初めて成り立つものである。物語を紡いでいくキャラクター達の個性や関係性をまず見ている者に伝え、その後で仲間達との絆や恋人との愛を描いていくのが基本中の基本。フリがあってこそオチが引き立つのであり、この過程無くして、感動的な名場面など有り得ないのだ。例えば頻繁に引き合いに出されるフランダースの犬でも、それまでのネロの境遇や追い詰められていく状況があったからこそ、感動を生んだのであって「もうボク疲れたよ、パトラッシュ」という一シーンだけが涙を誘うのではない。
ところが本作では、部屋に突然押しかけて来てビデオを付け、そのシーンだけを見せて「感動するだろ?」と強要するような愚行を平気で行う。なぜそんな事が起こるのかと言えば、シナリオライターは思い付いた急展開と後出し設定の説明ばかりに追われてしまい、物語を進めていく上で主軸となるキャラクター達を描くことを忘れてしまっているからだ。キャラクター達の関係を描くのも不十分で、このキャラクターはこういう性格で…という描写があまりにも少なく、それゆえに存在感が薄く感じられてしまう。もっと時間をかけて丁寧に描くべきシーンにも関わらず、ブツ切りのようにして次の展開へと直ぐに行ってしまい、プレイヤーの思考を停止させ置きざり。ほとんど関係を描いていないのに「アイツは俺のかけがえのない仲間だ」的な展開を迎えられてもこちらは困惑するしかない。
心の通わない薄っぺらい人間ドラマが展開するLost Planet |
たとえシナリオライターの頭の中で完結してしようとも、それを見るプレイヤーに伝えなければ意味がない。一貫とした自己主張を根底に置きながら物語を広げていく見る物を選ぶメタ的なものではなく、万人(大衆向け)に楽しめるエンターテイメントの作りをしているLost Planetでは余計にそれが必要だということに気が付いていない。とりあえずどこかで見たシーンを入れてみました的な浅はかな思考が至るところで散見し、まとまりがなく集中さえ出来ない。あるキャラクターがどこかで見たような最後を終えるが、行動に必然性が感じられず、ただの犬死に思わず失笑してしまった。緊迫した状況なら、プレイヤーに伝わるようにもっと明確に描くべきなのだ。
伏線や回収の仕方はやや強引ではあるがコンセプト自体は良く、非常に惜しい。曖昧な記憶から徐々に真相が明らかになっていき、父の仇を討つ展開は燃えるハズだった。だが上記で述べたようにキャラクター性の深みを描くのを怠ってしまった為、主人公にシンクロも出来ず、盛り上がりに欠ける展開になってしまったのが本作の過ちである。
風の谷のナウシカだよLost Planet |
最先端のグラフィックを活かし、滑らかなアニメーションで動く、見上げるように巨大で見る者を圧倒する大型エイクリッド(ボス)との戦闘がこのゲームの最大のフィーチャー。攻撃パターンを覚えながら、弱点に攻撃を叩き込む楽しさは往年のアクションゲームを彷彿とさせ、手に汗握る戦いは必死で夢中にさせてくれる。弱点に攻撃するとエナジーを飛び散らせ、倒すと凍って粉々に粉砕される様は実に爽快感があるものに仕上がっている。
ただし、残念ながらこのゲームはエイクリッドのボス戦のみが楽しいだけで、ゲーム性に変化を与えようとしているのか他にも雪賊、小型エイクリッド、VS(バイタルスーツ)との戦いがあるが、なんら面白いものではなく、むしろ苦痛で仕方ない。
まず雪賊、小型エイクリッドの戦いはシビアさに欠け、淡白過ぎる。敵はほとんど動かずに棒立ちが常で駆け引きを楽しめるようなものではなく、サーマルエナジーの自動回復機能が早すぎる為にダメージを受けながらでも平気で通り抜けることが可能で死ぬことは無いため、終始緊張感に欠けている。しかも、サーマルエナジーは常に減少していくので、敵は無視して進んだ方が良い場合が多い。隅々探検する間もなく、常に急かされながらのプレイは気持ち良いものではない。また、雑然としたマップの作りにも問題である。マップを作った後でテキトーに敵を配置してテストさえ行っていないバランスが破綻しているところが目立つ。敵は道を塞ぐ障害として使われるのが普通だが、避けて通れる場所があまりにも多い。脅威に感じない雑魚戦がよりそれに拍車をかけ、敵は無視してただクリア地点を目指せばいいようなタイムアタックゲームになってしまっている。
VS(バイタルスーツ)というパワードスーツがあり、これが強力な敵に対して唯一の対抗手段となり得る。敵もVSを使用してくるが、VS同士の戦いは攻撃が食らっているのか判別とせず、それにより手応えがエイクリッド戦ほど感じられない。また中盤からは完全にVS頼みのゲーム進行となり、メリハリに欠ける。歩兵時との対比を取るからこそ、VSの強さが感じられるのだが、これみよがしに大量に配置されていて、使い捨てて進んでいくので有難味もない。最後は超巨大なエイクリッドとの戦いがあると思いきや、ZOE(Zone Of Enders)と化し落胆。しかも楽しむ前にすぐ終わり唖然とさせられる。引き際が良過ぎるのも考え物である。やりたいことを何でもかんでも詰め込んだ挙句に構成破綻。これもその典型であり、エイクリッドとの戦いに的を絞って展開させた方が良かったのではないかと思う。
VSで攻撃するとズームしすぎて状況が分かり辛いLost Planet |
キーボードでの操作性が分からないLost Planet |
ZOEだよLost Planet |
マップの作りがテキトー過ぎるよLost Planet |
敵は棒立ちLost Planet |
ボスとの戦いが唯一の良心Lost Planet |
■見た目はA級、中身はB級。その名はLost Planet!
コンシューマでヒット、高い評価を受け云々…といった期待させるようなバイアス無しに「B級ゲーム」前提で覚悟してプレイすればそれなりに楽しめると思われる。存在感のある巨大なボスとの一戦はアツくさせるものがある。ただし、コンシューマで評価が高いマルチプレイは、途中参加が出来ない仕様かつサーバー自体もほとんど立っていない為、野鯖では満足に遊ぶことが出来ないことを念頭に置いておく事。
2007年7月12日 記
□Link
Lost Planet