FPS UnKnown

Halo2(2007-Bungie Studios)

■娯楽性に富んだスペースオペラ。さらに広がりを見せるHalo世界がプレイヤーを惹きつける

物議を醸し出した、あのHaloが帰ってきた。
コンシューマ層では絶賛に近い評価を受け、あっという間にミリオンセラーを叩き出し、今やマイクロソフトの看板タイトルを担っているHalo。ところがそれに比べるとPCゲーマー層での評判はあまり芳しくなく、二つの市場が求めるFPSの需要や嗜好の違いを晒け出してしまった、いわくのあるゲームである。

FPSとRTSに関してはコンシューマとPCのパイは相容れることが出来ないと言うのがPCゲーマーの主張であり、マルチプラットホーム化が激しくなるにつれ、隔たりは次第に大きくなり、確執は広がりを増していく。PCゲーマーの自尊心を一番傷付けるのは今まで馴染み深かった生え抜きの名作がコンシューマ層に合わせて影も形も無く改変させられる点にある。変化したことによるゲームの良し悪しは関係なく、それまでのスタイルを大きく捻じ曲げられた事実に怒りを覚えるのだ。戦略を練る楽しさを失った特殊部隊。大量のエイリアンを薙ぎ倒す爽快感を失った屋外Doom。 名前は同じにも関わらず、一番の特徴を去勢させられ、別物に変わり果ててしまったこと。まるで好きな人が突然誰かに奪われたような喪失感にひっそりと枕を濡らしたPCゲーマーは数え切れない。そして心が傷付いたPCゲーマーのことなぞ露知らず、別物と化したそれを我が物顔で楽しむコンシューマーに八つ当たりしてしまい、事態は泥沼化へ発展する。PCゲーマーは無邪気にゲームを楽しんでいるコンシューマーが悪いのではないと理解しつつも、ついつい治まりきらない怒りをぶつけてしまう。その行為の愚かさは重々承知していても。どうしても譲れないものがある。原理主義だとか、心が狭いとか寛容さが足りないとか罵られてもいい。変わらぬスタイルで面白さを追求して欲しいというのがPCゲーマーの願いなのだ。

想像してみて欲しい。金髪ツインテールが魅力のあの娘が突然紫ポニーテールに変わってしまったり、ダウナー系めがねっ娘が勝気になってコンタクトレンズにしてしまったらと。恐ろしくて声も出まい。だが、Haloに関してはそういう事情はあまり関係ない。もともとコンシューマ生まれのFPSであり、PC版は移植しているにすぎないのだから。開発元のBungieを遡って、マイクロソフトに金の力で奪われた!などと言う事は出来るが、その行為はあまりにも見苦しく、話が全く進展しないので止めておく。「脱線が多すぎる」と苦情のお手紙をもらうのも沢山だ。Xbox版から遅れること約3年。コンシューマFPS界の核弾頭「Halo2」がWindows Vista専用で遂に登場した。DX10、Shader4.0に対応していないのにVista専用にする必要性はあるのか、なぜ遅れに遅れて今更発売するのかと疑問が尽きない本作。ミーハーゲーマーUNK氏が満を持してバッサリ切っていきたい。

我等が主役マスターチーフ。妙に人間臭い所が素敵。
もう一人の主役アービター。チーフ並に出番は用意されている。
コブナントを扇動する預言者達。
まずバックグラウンドを大まかに説明しておこう。技術進歩によって光速移動が可能となった人類は新たな地を求めて植民地の開拓に力を入れ始めた。そして地球の環境に類似した惑星リーチや惑星ハーベストを発見し、人類は移住していく。だが、突然ハーベストからの通信が途絶えてしまう。原因は知的生命体「コブナント」による襲撃。独自の宗教観を持つコブナント達は地球人を神を冒涜する悪魔とし、戦争を仕掛けて来たのだ。強力な戦闘力を持つ彼らの前に成す術も無く人類は壊滅状態に陥ってしまう。そこで人類は対コブナント戦闘要員として機械化兵士を生み出し「SPARTAN2」作戦を開始する。優秀な遺伝子、柔軟性に長けたAI、高い戦闘力を併せ持つ彼らで構成した軍隊をコブナントの本拠地へ送り込み、根絶やしにするという作戦だった。だが、作戦の途中でコブナントが地球へと近付くのを察知した地球の戦艦達はコブナントへ攻撃を開始するが、圧倒的な戦力の前に返り討ちに遭ってしまい、地球から遠ざけることには成功したが残る戦艦はオータム一隻となってしまった。逃げ惑うオータムの何十回にも及ぶワープの末に、目の前に環状惑星「Halo」が現れる。その惑星にオータムは着陸するが、既にコブナントによって支配されていた。そこでSPARTAN2作戦最後の生き残りマスターチーフと海兵隊達が力を合わせ、コブナントを一掃する為に奮起する。惑星を探索する内にHaloのリングに隠された謎、古代の種が残した生物等の複雑に絡み合った伏線が徐々に解けて明らかになっていくのが前作Haloのストーリーラインである。そこらに転がる凡百なFPSのSFとは異なり、確固に構築された世界観の中で展開していく神秘的でミステリー性のあるシナリオにプレイヤーは夢中になった。ゲーム世界の丁寧な作りこみが没入を高め、勝利を生んだのだ。

Halo2でも怠ることなくシナリオに力が入っており、ゲームを進めていくための十分な動機付けになっている。ゲームにおける世界観やシナリオの重要度をBungieはしっかり心得ていると言えるだろう。Haloに隠された秘密は前作で明らかになった為、あれ程の驚きはないものの、今回はコブナント側の内情を掘り下げて語ることでHaloの世界はより深みを持つようになった。ただの襲ってくるエイリアンだった彼らにも彼らなりの事情があり、想像もしていなかった違った一面を垣間見れる。

コブナント側のシナリオに入り込み易いように、プレイヤーとの橋渡しをしているのが本作のもう一人の主人公アービター(エリート)の存在である。彼は前作の失態によって、死刑の予定だったが、預言者達によってアービターに任命され、裏切者達を断罪する命を受けて戦う。だが、預言者の言っている「大いなる旅立ち」の本当の意味を知った彼は、その狭間で揺れ動くのだ。命に従うべきか、真実を受け止めるべきかと。Haloを大いなる旅立ちと呼び、起動させることを目論む預言者勢と最悪の事態を阻止しようとする反対派の勢力争いは二転三転し、目まぐるしく変化していく展開がプレイヤーの興味を引き付けて離さず、ついつい先が見たいとゲームを続けてしまい、止め時が見つからないと言った感じだ。演出面にも強化が感じられ、ハリウッド的な作りのしっかりしたエンターテイメントを提供していて、見ている者を飽きさせない。

だが、ゲームはこれからという時にチーフが意味深な台詞を言っていきなり終了する。Halo3への壮大な予告編という感が否めず、しこりが残るラストになっている。あそこでブツ切りにするのは生殺しに近い。今回はコブナントの側面を描くのを重視しているため、期待していたマスターチーフの活躍があまり見られず、番外編的な意味合いを強く感じてしまうのは残念だ。



みんな大好きアキンボスタイル。バリバリやっていいんだよ。
ステルスで背後に近付き、エナジーソードで一撃を食らわせ!
ゲームのシステムは前作を基本的には強襲している。大味なシューティング、要所要所のストレス解消にうってつけなビークル戦、小気味良く展開していく演出、個性豊かな敵キャラクターとの戦い。変更点は銃の二挺持ちが可能になったこと、ライフはゲージ式ではなくなり一定時間が経てば完全に回復するようになったこと、そしてコブナントの主人公アービターを扱えるようになったぐらいだ。これらの変更点は前作にあった不満点を解消する為にうまく働いている。
銃の二挺持ちが出来るようになったことで火力は比例して上がり、幅広い武器の組み合わせはゲームの戦略性を高めている。ライフが完全に回復するようになった為、回復アイテムをいちいち拾わなければいけない煩わしさを無くして、ゲーム全体のテンポアップを図っている。アービターを扱えるようになったことで、海兵隊ではなくコブナント達と協力する場面が生まれて変化を与え、新鮮な気持ちでプレイできるだろう。アービターの基本性能はマスターチーフと変わりがないがステルス機能を持っているので真っ向から戦わずとも、ステルスで駆け抜けるという戦法も可能になった。

なにより前作で多分に見られたコピー&ペーストの如く、延々と同じ構造のマップを使い回して、ボリュームを水増している冗長さが無くなったのは大きい。あれには誰しもうんざりさせられたことだと思うが、今回はロケーションは変化に富んでおり、プレイヤーを楽しませてくれ、敵の出現数も対処できる数に抑えられている。ただ、オープンなレベルが減ってしまったので開放感を感じるところが少なくなっているのはマイナスか。

残る不満点は爽快感に欠けた大味なシューティング。照準は馬鹿でかくて、緻密なエイミングをあまり必要とせず、大雑把に撃っていても当たる為、ヒット感に乏しく快楽性が足りない。ビーム系の武器が占めるので音に迫力がなく、良い銃撃感も得られない。PCゲーム用に移植するなら、照準の大きさくらいは変更させてくれてもと思うのだが、なかなかそうもいかないらしい。

新たに生まれた不満点は進歩の無いAIと音楽の使い方だ。前作Haloはあの頃にしては、自立性を感じられるAIを持ち合わせ、シューティングを面白くさせていた。臆病なグラントは逃げ回り、エリートは理性的に立ち回ったりと戦闘を通じて個性をしっかり表していて、一線を画していたと言っても良い。ただあれから数年経った続編である今作では更に進化しているかと思いきや、前作とあまり変化がない(ノーマルでプレイしたので、難易度が高ければ変化するのかもしれないが)。仲間がちゃんと付いてこずスタックは頻繁に起こり、むしろ場所によっては退化している印象が否めず、肩透かしを受ける。
音楽の使い方には不適切な場面が多い。何の変哲のないところでいきなりハードロック調のノリの良いのが流れたり、戦闘が激化している時に限って環境音だけだったりと盛り上がりに欠け、使い方を誤っている。そのせいで今作では淡々とした戦闘シーンが目立っている。

Xbox版を発売したのが2004年。PC版は約3年遅れての移植となる。それを考慮すれば致し方ないとも思うのだが、グラフィックは旧世代的で時代を感じさせる作りだ。カットシーンこそ、キャラクターの細かいディティールや滑らかなアニメーションと被写界深度によるピントずらしを効果的に使い、2007年のゲームとして見ても匹敵するクオリティを見せるが、それがインゲームになった途端にメッキが剥がれたように露呈してしまう。この落差があまりにも大きく、もはやジェネレーションショックの域に達している。あまりにも酷くて、麦茶を噴いたレベルでは済まされない。Vista専用にして、3年もスパンを開けるなら、もう少しクオリティを向上させるとか努力の方法があると思うのだが、金の亡者に何を言っても言うだけ無駄なのは理解しているので、クドクドとは述べない。とにかくヤッツケを感じる出来で移植に関しては褒められたものではない。

今作から乗り物に乗っている敵に対して対抗手段が増えた。
グラントが非常に可愛らしい。萌え。特に声が。合法ロリ。
ドローン。ちょこまかと移動してうるさいから気をつけろ。
ビークル戦が用意され、戦闘の丁度良いアクセントに。
敵が争っている時は待つのも一興。努めて利己的に。
ちゃんと弱点を突かないと倒せないぞ



■ラストは問題ありだが、息つく暇のないストーリー展開は魅力的

前作の不満点をきちんと受け取め、改善している点には好感が持てる。それにより面白さを凝縮させ、ブラッシュアップした作品に仕上がっている。続編として堅実な作りで、個人的には今作の方が好みである。ストーリー展開は上質だが、ラストの尻下がりな終り方には不満を覚えるところ。今すぐVistaを購入してまでプレイする必要性は感じられず、PCを買い換えた時にでもプレイすれば良いだろう。翻訳には力が入っているし、シナリオを楽しむために是非日本語版を薦めたい。

2007年6月23日 記

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Halo2

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