FPS UnKnown

F.E.A.R.: Extraction Point (2006-TimeGate Studios)

■ベストを尽くした拡張パックに賛辞の言葉を

AIと緻密な駆け引きをさせてくれた、あのFEARの拡張版
拡張パック。ゲーム本編のシステムを流用しながら、幾つかの要素を追加し、新しいキャンペーンを含んだものを指す。昔はヒット作には必ずと言っていいほど拡張パックがよく製作されてきた(もちろん例外もあるが)。拡張パックは既存の素材を流用することでイチから作るコストが抑えられ、ヒット作ゆえに「もっとそのゲームを楽しみたい!」というファンの存在によって、ある程度の売り上げを見込めるという利点があり、販売元や開発元がこれを逃す手はない。

拡張パックに問われるのは、本編の内容をどう広げて活かすかという点に尽きる。本編の流用とはつまりプレイヤーが既に体験しているものが大半を占めることになるのは明白。本編と同じ範囲内で同じことを繰り返していてはプレイヤーに満足は与えられない。たとえ拡張パックと言えども一切妥協は許されないし、本編以上のものを望んでしまうのがプレイヤー真理である。

2005年にMonolithが発表したFEARは幾つかの不備は見られたが上質なFPSだったことに間違いはない。元々予定があったことは容易に想像は付くが、拡張パックを製作する条件は万全に揃ったと言えるだろう。Monolithは完成されたシステムを作り、その努力が実りヒット作と呼ぶに値する評価や売り上げを得ることが出来た。

そして満を持して続年の2006年にTimeGate Studiosが手掛けた拡張パックExtraction Pointが登場した。アクションゲーム界隈ではあまり聞き慣れない会社だけに不安が募ったが、彼らはそんな心配を吹き飛ばすほどに十分な仕事をした。先に断言しておく。FEARを楽しんだが、まだExtraction Pointをプレイしていないという人は必ずプレイすべきであると。

悲しみと憎しみが一つに帰結する時、真実は訪れる
ゲームは本編のエンディングからの続きとなる。主人公の活躍によって、クローン部隊を掌握して指揮していた諸悪の根源フェッテルを殺し、囚われたままだったアルマを解放。事態は一見して収束したかに見えた。だが不時着したヘリからかろうじて生き延びた主人公が見たのは不敵に微笑むフェッテルの姿と再起したクローン部隊。そしてフェッテルの残滓は終わり行く世界への始まりを宣告する。沈黙した都市に閉じ込められ、孤立無援となった主人公は永遠に響き続ける慟哭から母を解放し、Extraction Point-脱出地点へと辿り着くことができるのか―――。

今回描かれるのはアルマの側面。本編では計りかねたアルマの二つの情念が交差し合う。一人のアルマは主人公を導き、もう一人のアルマは進行の邪魔をする二極の心が反発し、その絡み合う情念を主人公は感じ取り、未だ囚われている彼女を解放するために真実へと迫っていく。不明瞭な部分が多すぎて散漫とし、説明することに時間を割き過ぎていた本編に比べると、拡張では描きたいテーマがはっきりとしていて、熱中しやすいものになっている。

本編ではこちらから歩み寄らないと得られない情報などがあったが、拡張ではフェッテルやアルマを使ってストーリーテリングしていくので話の筋道がつかみ易い。冒頭のフェッテルの語り口も実に巧妙である。今回は散りじりになったFEARのメンバーには重要な局面が訪れ、事態は悪化の一途を辿り、新たな展開を迎えたところでエンディングを迎える。続きが気になって仕方がない作りは実に小憎い。次作を買わせるための布石として拡張パックは十二分に働いていると言っていい。個人的には本編だけではそうでもなかったが、拡張をプレイしたことで続編への期待は膨らむ一方だ。

日頃の鬱憤はミニガンで吹き飛ばせ!
FEARと言えば何と言っても、スピーディーな銃撃戦と状況判断能力に長けたAIとの高度な駆け引きが魅力だった。拡張ではマップが広くなり、配置されている敵の数も増えたことで戦闘は更に激化して壮絶に繰り広げられる。

そして今回から追加された武器の存在は銃撃戦をより激しいものにさせている。特にFPSの花形「ミニガン」は凄まじい攻撃力が魅力的で、敵に弾幕の嵐を降らせるのが非常に爽快。ところ構わずついつい乱射したくなるトリガーハッピーさんにはうってつけの武器だ。設置型のタレットは配置場所によって大きな力となってくれる心強い味方で、上手く使えば篭城戦で乗り切ることも可能。

また到達する経路が複数用意されている箇所が増えて、敵の無線通信を聞きながら裏を掻いて先手を突いたり、あっちへこっちへと翻弄しながら攻撃できる場所が多くなったお陰で戦略性は高まっている。

いわゆる洋ゲーのパニックホラーとは違った、ジャパニーズホラー系の演出を採用している点が珍しかったFEAR。拡張でもホラー演出は健在でこれでもかとFPSというジャンルでは今までに見たこともない光景が次々と現れる。ただし本編の演出の質に比べると、キャラクターのアニメーションやカットシーン中のカメラワークがやや洗練さに欠けており、本編を基準に10点とすると拡張は8点くらいの出来のものが序盤を占めている。しかし後半になるにつれ徐々に手馴れてきたのか、本編同様のクオリティに変化していき着地点としては同じ位置に到達している印象。

本編と大きく異なるのは冗長な移動シーンを減らす代わりに、戦闘や演出シーンを増やしている点。本編ではサイコロジー的な恐怖感を味わせたいのか、恐怖演出の前フリ(移動シーン)を長くしていたが、あまりにもダラダラと長過ぎたために演出が来る頃にはダレてきて恐怖感が薄れてしまって本末転倒に陥っていた。しかも恐怖演出は姿をチラッと見せるだけだったりとさりげないものが多くて、全体的に上滑りしているように感じられ、その冗長さ加減がゲームのテンポも悪くさせる始末だった。

拡張では移動シーンの割合は極力減らして、戦闘が終わればすぐ演出と次から次へと休む暇なく新しい展開が挿入されることで、常に緊張感を保ったままゲームに没入できるようになっており、小気味良いテンポで進行していってついつい続けてしまう。それゆえ時間当たりのボリュームが濃くなり、FEARの面白いところだけを詰め込んだと言っていい内容に仕上がっている。

戦いの舞台は本編に比べて広い場所が増えた
スローモを使ってブッ飛ばす爽快感は今回も健在
ジャーン、ギャー!次々に登場して飽きさせない
ソフトフォーカスが臨場感を増して怖い
盾持ちはミニガンを使う。弾薬消費させる前に倒すんだ
新型パワードスーツが持っているもの。いわゆる一つの萌え要素



■優秀な拡張パック。FEARを面白いと感じたなら必ずプレイすべき

本編から余計な部分を省いて、面白さを凝縮させた内容。時間は5時間程で終わってしまうが、内容は本編並みに収録されているので値段分は十分に楽しめる。続編が出る前には必ずやっておくこと。マストバイ。必ず買え。これで、もしつまらないと感じたなら誹謗中傷でも、ヴァイラスでも、劣化ウランでも、プラスチック爆弾でもUNKさん宛てに着払いで送って構わない。責任は取る。

2007年7月5日 記

□Link
FEAR
TimeGate Studios

©2007 FPS UnKnown