■浅はかな理解は浅はかな作品しか生まない
人は彼をMatadorと呼ぶ |
例えばFPSの代表作とされているDoomというゲームがある。迫り来るエイリアンを殲滅する一人称視点のシューティングゲームだ。ただ、代表作だからと言って勘違いしてはいけないのはDoom以前にも一人称視点で行うシューティングゲームはあった。同じ開発元がDoom以前に作っていたWolfenstein 3Dはまさしくその一つであり、コックピットからシューティングを行うゲームも広義の意味で取ればFPSと言えるかもしれない。FPSのアイデアを生んだのはなにもDoomが初めではない。ではなぜDoomがFPSの象徴として君臨しているのかと言えば、FPSの魅力を人々に伝えることが出来る解説力を持っていたゲームであり、このジャンルが持つ無限の楽しみを手取り足取り表現することに長けた辞書そのものだったからだ。アイデアは確かに過去からの流用かもしれない。だが、それまでDoomのように明確にFPSの魅力を伝えてくれるゲームは存在しなかった為、FPSの王者として今でも語り継がれているのである。
アイデアは優れていたとしても、実に繋がらなければ意味を成さない。真意を伝えることが出来なければ意味がないのだ。そもそもアイデアの発明なんて先出しジャンケンに過ぎず、唯脳を理解している人ならその無意味さを理解して頂けると思う。ゲームという媒体では積極的なアイデアマンよりも有能なパフォーマーであることが重要である。優れたアイデアだろうと、その素晴らしさを表現することが出来なければ無用の長物と化す。マッチを持っていても、点け方を知らなければ火を熾こせないのと同じように。もちろんこの業界には発明者であると同時にそれを過不足なく伝えることの出来る表現者も沢山存在する。
何度も繰り返すと、アイデアを二番煎じするのは構わない。大切なことはそのアイデアの本質をきちんと理解し、どう表現するかだ。それに付け加えアイデアを発展させて、そこにオリジナリティを生むことが出来れば一番である。
スローモーションで敵を蹂躙しろ |
薄っぺらい人間ドラマが展開 |
魔法の弾丸が障害を超越 |
ステルス用のステージかと思えば… |
初めに結論を言っておくと、El MatadorはMax Payneを表面的に真似ただけの浅はかなゲームである。Max Payneがなぜヒットしたのか、どうしてゲーマー達を夢中にさせたのか、本質を全然理解していない。外見だけをそれっぽく似せただけの模造品、よくある2流の会社の没個性的な二番煎じ。これもその典型である。
まずストーリー展開からしてお粗末。このゲームの主人公は麻薬捜査官のビクター、正義感に溢れる彼を操作してテロリスト達と戦っていくストーリーとなる。彼の兄も同じく麻薬捜査官で、任務中に命を落としたという裏設定があるらしいが、シナリオには全く関わり合いがない。兄の死を胸に復讐を誓う為に同じ警察に入ったとか、兄の死を知って更に捜査に熱心になったとか、そういう戦う意義を感じさせるような説明は一切なく、上司の「麻薬を扱うテロリスト達は悪いヤツだから、ジェノサイドして構わない」という倫理観無視の命令に従うだけの退屈なものである。人間ドラマを描こうとしているのか、同僚との会話も用意されてはいるが、さして面白いものでもなければ、続きが見たくなるようなものでもない。一応、伏線として機能させようとしているが、うまく働いていない。
このテロリストジェノサイド計画は最後まで続くと思いきや、Max Payneを真似ようとしているのか最後の最後で想像の範囲内の展開を見せる。ネタバレせずにボヤかして書くと、主人公の選択を問う場面に陥ることになるのだが、それまでのストーリー進行から見るといきなり脈絡のないお粗末な展開になってしまっているのだ。こういう結末を迎えるなら、もう少し匂わせるような演出やそれまでの偽りの絆を見せるからこそ映えるのであって、いきなりこんな展開を迎えられても驚くどころか滑稽で薄っぺらいものに感じる。そして、展開が最後の最後に起きるのも問題である。すぐに終わりを迎えてしまい、主人公が葛藤に悩みながら戦っていくという時間さえ与えられていないという始末。打ち切り漫画のような無理矢理終わらせた感じが漂っている。もっとじっくり時間をかけて、そこに至るプロセスを事細かく説明し、狭間で揺れ動く主人公の姿を描いていれば感じる印象も変わってきたかもしれないが、深みの足りない浅いシナリオに終始してしまっている。
ゲームはスローモーション機能を使いながら、大量にやってくるテロリストを薙ぎ倒していく。いかにも某なんとかPayneを彷彿とさせる内容。銃声は耳障りが良く、撃っている挙動も良し、敵にヒットさせている感触も得られる、しっかりした作りで銃撃感は心地良いものに仕上がっている。
ただ、シューティングゲームとしてのバランスは破綻しており、ちゃんとテストを行ったのか疑いたくなる出来である。まずスローモーションはゲージがある時は任意で行え、シュートドッジ中(飛び込みジャンプ)にも発生するが、あくまでスローモーションであって、Max Payneのようなバレットタイムではない。スローモーション中の主人公の加速が少なく、飛び交う弾の軌跡を見ることなく即着弾する為に、弾幕を避けながら近付くと言った行為は不可能でダメージ必須となる。また、AIの命中率が高く、一発辺りのダメージも大きいために、ダメージを受けずに戦おうとすると壁際からズームしながらチマチマ撃つしか方法がない。このゲームでは壁やオブジェクトを銃弾が余裕でブチ抜く某オズワルドもビックリの弾丸仕様の為に、角からズームしながら壁に向かって撃つのが最善の方法。敵はそれを意図してか、ずーっと同じ場所でキャンプを張り続けるので良いカモになるというわけだ。
しかし、セコイ方法を使わずとも、シビアなバランスの帳尻を合わせるかのように回復アイテムやアーマーが大量にマップに配置されているのでスローモーションを使いながらゴリ押しも十分可能なレベルである。被弾は避けようがなく、ダメージを受ける前提で戦うのはあまり気分の良いものではないし、爽快感に欠けてしまうのは諦めるしかない。また、回復アイテムを持ち運べないず、ミスしてダメージを受けすぎてしまうとアイテムの有る場所までいちいち戻るのも億劫な為に角から銃撃頼みになるのも致し方ない。セコイだとか、邪道とは言っていられない。背に腹は変えられないし、いつだって諦めや妥協が肝心なのだ。
バランスを悪くしているのはレベルデザインがほとんど一本道で回り込んだりという方法が取れないこと、ある地点まで進むと敵が登場するというトリガー方式を取っている為に、どうしてもこちらは受け身を取らざるを得ない点にある。進まないと登場しないのでグレネードで先攻を与えるのも不可能。開発当初ではステルス戦を用意しているとのことだったらしいが、名残りがあるだけで実質不可能である。サイレンサーがなく、一度攻撃すれば全員が気付き、そもそもトリガーで登場する敵が大半を占めるので裏をかくこと自体が無理なのだ。
ボスがステージ毎に配置されているが、キャンパーと化している雑魚敵と違って、この場合だけ例外でボスは良いノードワークを取る。あっちに行ったり、こっちに行ったりと忙しく行動し、駆け引きが楽しめる。どうも雑魚敵はその場に留まる様に設定されているようで、ポテンシャルはあるのに活かせず制限しているのはもったいない。個人的には行動できる進路を増やして、雑魚敵をフリーに動けるようにし、受けるダメージを下げれば、一人一人と駆け引きが楽しめる良いバランスになったのではないかと思う。
ゲームはキャンパーテロリスト達と延々と同じような戦闘を繰り返す内容で、小休止のパズル要素などは一切なく、戦闘一辺倒に終始する。変化に乏しい平板なゲーム展開で単調と言っていい。仲間との共闘があるが、どうも人間味に乏しくいかにもコンピュータ然としていて、一人で戦っているのと変わらず、変化を与えられていない。ゲームは全6チャプターで約6時間で終わる為、冗長さや飽きを感じる前に終わるのが救いである。
シューティングの基礎はしっかり作られているため、爽快感は得られるのだが… |
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仲間が居ても居なくても大して変わらない。孤独なのだ |
こっちの一方的な攻撃で終わるヘリコプター戦もあるよ |
キャンパーにはキャンプ行為で対抗するしかない |
使わない(使えない)銃が多すぎだろ常識的に考えて |
■没個性的な模倣作
シューティングの基礎はきちんと作れており、グラフィックも高水準な内容でポテンシャルは感じられる。しかし残念ながらシナリオにしても、ゲーム性にしても全てが浅い段階で練り込み不足。もう少し経験を踏んで一皮向ければ化けるかもしれない。よってPlastic Reality Technologiesの次回作に期待する。
2007年7月3日 記
□Link
El Matador