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BioShock (2007-Irrational Games)

■BioShockが評価される理由

皆が夢見た理想の世界ラプチャーへようこそ
世の中には荒削りながらも新しい取り組みに挑戦した作品があれば、目新たらしい要素は無いものの破綻を起こさずに高い完成度を誇る作品もある。そして時代を先取りしたパイオニアも居れば、パイオニアが発掘したアイデアの原石を見事に形にして昇華させるフォロワーも居る。

両者の取り柄だけを備えていれば、さぞ素晴らしいに違いないが、そんな簡単にはなかなか上手く事は運ばないのが世の常。革新性を活かしながら、卓越した構築力で作り上げられた作品を目にすることはそうはない。その内どちらが優れているかは個々の判断に任せるが、BioShockを上記のタイプで分類するならば後者に当てはまると言えよう。ただし先進性が無いからと言って、それが決して悪いわけではない。

独創的なアイデアを発明する行為は功績に値するが、そのアイデアに振り回された挙句に完成品がゲームとして成り立っていないのでは一つの作品として見た場合に価値が乏しい。どんなに優れたアイデアだとしても活かし方を知らなければ、実現出来なければ宝の持ち腐れ以外の何者でもない。

先人が発見したアイデアを上手く落とし込み、万人にそのアイデアの素晴らしさを伝わるように組み立てる力もゲーム開発においては重要な能力である。そういう意味においてBioShockはアイデアマン<発明者>というより、パフォーマー<表現者>だと言えるだろう。ADV、RPG、そしてFPSの源流をしっかり受け継ぎ、確固たる世界設定とそれを表現したグラフィック・臨場感が伝わる迫力あるサウンド・探索することで更に深みを増していく緻密なシナリオ・環境を最大限に活かしたフレキシブルさを求められるゲーム性・ラプチャーの生態系を表したAIの多様な行動…全てを高いアベレージで構築した安定感のある丁寧な仕事振りこそがBioShockが賞賛されている理由なのである。

●理想主義と権力闘争が混在するディストピア「ラプチャー」に広がるバイオパンク世界

ダディとシスターはいつでも一緒
ゲームは主人公ジャックが乗っていた飛行機が海へ墜落し、海上で不気味に聳え立つ塔に命からがら到着。そこにひっそりと格納された水球船に導かれるようにして海底都市「ラプチャー」を訪れるところから始まる。

ラプチャーは遺伝子工学を過剰に推し進めた結果、掲げていた理想主義が脆くも費え、権力闘争が絶えないディストピアと化した危険な都市。主人公はラプチャーを探索しながら、そして見境なく襲ってくるスプライサーと呼ばれる狂人達と戦いながら脱出する方法を探し出さなければならない。

まずゲームを開始して真っ先に目を引くのが流線的なラインとドギツイ彩色に溢れたアールヌーヴォー(アールデコ)スタイルで建造されたラプチャーの構造である。アールヌーヴォーのレトロな作りにハイテクを盛り込むことで醸し出される独特の雰囲気は、常套的なSF・近未来・第二次世界大戦モノが大本を占めるFPSに比べて新鮮な感覚を与えてくれる。隅から隅まで妥協を許さない偏執的なまでの作り込みは最先端に立つ次世代の映像美を誇り、ラプチャーの存在を嘘偽りのない確固たるものとしている。これにより開始直後からプレイヤーは有無を言う暇もなくBioShockの世界へと引きずり込まれるのだ。インゲームへのシームレスな導入、掴みの部分でグッと惹き付け、プレイヤーを魅了して離さず、ラストまで巧みに誘導していく。

ラプチャーには力を求めるあまり狂人へと変化してしまった「スプライサー」、アダムと呼ばれる物質を採取して運ぶベクター「リトルシスター(以下LS)」、そしてリトルシスターを外敵から護衛する「ビッグダディ(以下BD)」が存在し、小規模ながらも生態系を形成している。LSとBDのコンビは主人公に対してもスプライサーに対しても攻撃を仕掛けない限り中立な立場を守っており、実質的にプレイヤーの敵となるのはスプライサーのみとなる。

雨漏れで水浴び。女性だから綺麗好きなのです
ゲームの進行は各エリアに課せられた目的を順にこなしていく流れでエリアは一つの箱庭になっている。エリアはHUB方式で繋がっているので、いつでも好きな時に行き来が可能。ストーリー展開の縛りは少なく、プレイヤーはエリア内を自由に探索することが出来る。エリアにはゲームの進行上に関係のない部屋が1/3ほど用意されており、実直に目的だけをこなすのも、全ての部屋を探索してラプチャーの世界を満喫するのも自由である。

スプライサーやLS&BD達もエリアで自由に徘徊を行っており、同じ場所を通過したからといって、同一の展開が発生するとは限らない。LS&BDは死体からアダムを黙々と採集し、スプライサーはヘルスステーションに頭を突っ込んで回復しているのも居れば、レンチを壁に擦りつけながらぶつくさ呟いているものも居る。様々な行動パターンを取るので、影からじっくりと観察してみるのも一興。

スプライサーを倒していくと定期的に補充されるので、従来のFPSのような敵を抹殺した後でプレイヤーは一人エリアを悠々と歩き回るようにはならず、一定のサバイバル状況や緊張感が常に保たれる。このシステムのお陰でアイテムやお金収集目当てに延々とスプライサーを狩り続ける楽しみがあり、いつのまにか目的を忘れて延々と狩り続けている自分が居たりするから驚きだ。箱庭の作り故、迷いやすい方向音痴のプレイヤーを考慮してか、細かく説明が書かれたオートマップに加え、設定で目的への方向表示がされる配慮は迷った時に重宝し、親切な作りで好感が持てる。

●プラスミドと周囲の環境を活かすのが重要となる戦闘。合言葉はリメンバー、ワンツーパンチ!

水中に電撃を放てば感電コンボ!
武器となるのはピストル、マシンガン、ショットガン等のFPSに登場するスタンダードなものに加え、プラスミドと呼ばれる魔法を扱える。電撃、炎、冷凍、仲間割れ、チャーム、罠、テレキネシス、ダミー、セキュリティに撹乱するものと種類は多岐に亘り、まずプラスミドで先制してから銃でトドメを差すコンボが基本となる。銃だけでガンガン突っ込めばクリア出来るようなFPSとは毛色が少し異なるのだ。

プラスミドは周囲の環境を活用することで更に効果を上げられ、状況に合わせて駆使していけば戦闘は格段に楽になる。例えば水中に電撃を放てば感電死を起こし、漏れたオイルに炎を放てば強く燃え広がる。敵は燃えると近くに水があれば飛び込むので、そこへ電撃を放つといった複雑なコンボもAIの多様な行動によって発生する。

敵が複数登場した時はダミーを呼んで惑わせたり、テレキネシスでそこら中の物を投げつけたり、ダディを一時的に仲間にしたり、セキュリティアラームをわざと鳴らしてボットを誤解させるプラスミドを敵に使い擦り付けることが可能。取れる戦略の幅は広く、この箱庭世界では即興で状況判断力が問われる戦闘が起こる。「如何に環境を利用しながら、最小限のリスクで戦うか」を考えながら戦い、想像通りに上手く事が運べば爽快。プレイする内に次々と行動が増えていき、今度はあれを試してみよう、今度はこれを試してみようと戦闘意欲を掻き立てる。

仕掛けられたセキュリティカメラやタレットをハッキングして味方に付けておくのも重要である。敵に追い込まれてピンチな時には仕掛けられている所まで逃げれば、敵の攻撃対象は主人公からタレットに変わり、生存確立は高まる。タレットはスプライサー相手なら非常に心強い存在である。また、徘徊するスプライサーがセキュリティカメラに引っかかり、勝手に戦闘を起こし、死体がいつの間にか出来ていたなんて事も日常茶飯事で面白い。

●アダムを取るか、モラルを取るか、判断を迫る局面!しかし、全体的にやさしめの難易度は問題。

ダディを倒すのは胸が痛むが仕方のないことなんだ
人体の潜在能力を高めるアダムと呼ばれる物質。アダムを用いることで、主人公を強化&改造することが出来るが、これはLSしか抽出することが出来ない。アダムを手に入れる為にはLSを護衛しているBDを倒し、LSを狩るか・助けるかの選択を取ることになる。この判断によりエンディングが変化するので注意して欲しい。

BDはスプライサーとは比べ物にならない位に非常に驚異的な存在で、生半可に挑んだ所では返り討ちにされてしまうのが関の山。これまで以上に周囲の環境を活かして罠を張り巡らして工夫して戦う必要性がある。普段は危害を加えない限り、中立的な立場なので行動パターンを見ながらじっくりと戦略を考えることが出来る。スプライサーとの戦闘とはスタンスが異なり、ゲーム展開に変化を与えるアクセントとなっていると言えるだろう。

無事にBDを打ち負かせば、LSは貴方のもの。LSのアダムを吸収すれば160ポイントを得られ、自動販売機で新しいプラスミドや特殊能力を覚えたり、能力を装備できるスロット数を増やせる。ただ、LSを助けた場合でもアダムは80ポイントを入手出来るし、尚且つ数人を助けるとアダムとアイテムが詰まったテディベアをプレゼントしてくれるので、助けた場合でも十分補えるバランス。全て助ければ自動販売機に並んでいる能力はほとんど得られるようになっている。得た能力は自動販売機で蓄積され、いつでも入れ替え可能なので取捨選択に迷うようなことがない。

一回のプレイで全てを味わえるのはライトなゲーマーに対しては利点と言えるが、逆にコアなゲーマーに対しては欠点になりかねない。全ての能力が揃い、万能に育ってしまう為にリプレイ性を損ねており、複数回のプレイに耐えないからだ。限られたアダムの範囲でどういうタイプに成長させるかを選ばなければいけない仕様であれば、二度三度とリプレイする動機が増えるが、リプレイをしない人にとっては魅力が半分しか伝わることがない。BioShockはそれを避けて一度のプレイで魅力が全て伝わるように主人公が万能に育つ仕様を取っている。

ゲームバランスは普段からFPSをプレイする人にとっては簡単な部類といえ、残念ながら本作は進むにつれて手応えが欠けてくる。 プラスミドの基本性能はどれも高くオーバースペック気味、しかも後半につれて便利な能力が増えてくるので主人公が強力になり過ぎるきらいがあるのだ。登場する敵は多少固くはなれど、中盤でバリエーションは出揃う為に変化に乏しく、行動パターンは読めた後は苦戦することはない。また、死んでもゲームオーバーにはならずにVita Chamberでペナルティなしに生き返る為、「死んでも別にいいや」的な安息感を与え、緊張感を削いでいるのも問題だと言えるだろう。

Enrageで仲間割れ。これぞ他力本願寺
ハッキングは同じことの繰り返しで飽きてくる
プラスミドの紹介。レトロなコマ漫画は本作の雰囲気の構築にも役立っている
写真を撮ることで敵を弱体化、新しい能力が得られる。積極的に激写、激写!
仲間にすると非常に心強いビッグダディ
銃撃はヒット感が薄い



■洗練された良作。遊んでおいて損はない一本。

メディアの煽り方は露骨過ぎるような気もするが、大作の名に相応しい仕上がりなのは間違いない。洗練された粗のない丁寧な作りで幅広い層が楽しめる作品である。映像表現が素晴らしく、是非とも高設定で遊んで頂きたい。急がずとも少し寝かして、スペックを上げた時にプレイしても十分価値はある。文章量が多い故に作品をディープに楽しむには多少の英語力が必要とされる。見ているだけでは理解しにくい部分もあるので注意して欲しい。PC版は難しいかもしれないが、Xbox360版なら日本語版を待つのも選択の一つだ。

2007年9月1日 記

□Link
BioShock Official
The Cult of Rapture
BioShock Wiki
Rapture Gazette

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