FPS UnKnown


Call of Juarez

ならず者は飽きることなく撃ち合いに興じ、悪事に勤む。
人々から、かけがえの無い日常を奪い取り、残す物は悲しみだけ。
そして見せかけだけの萎えた秩序が世に蔓延っていく。

吹き荒ぶ風がコートをはためかせ、荒野に口笛が響き渡る。
刹那に煌く断罪の刃は今も未だ錆びずに輝き放ち、
復讐の炎に燃えた男は再び罪科を手に取った。

長年培った絶技は覚を失わず、音速のファニングは快音を閃かせる。
二挺拳銃のマズルが暁色に染まり、懐かしい硝煙の香気が鼻孔を擽る。

己が信念を貫くまでは果てるわけにはいかない。
魂焦がし、たとえ燃え尽きようとも、憎くき全ての罪魁を断つ、その時までは。

中欧Techlandが愛を込めて送る。
荒野に賭けた男達への鎮魂歌「Call of Juarez」


□Call of Juarez ― ポーランド産ウエスタン

Call of Juarezは西部劇を題材にしたアクションアドベンチャー。開発はSF FPS「Chrome」で有名なTechland。エンジンには改良したChrome Engineを使用している。UK版は2006年9月に発売。US版は2007年中頃に発売予定 。

開発の動機として。Techlandには西部劇フリークが多く、予てからゲーム上でいつか再現したいと願っていた。西部劇の勧善懲悪なストーリー展開は万人に受け入れやすく、決闘・追跡劇・ガンファイトなどの要素が揃っている事からシューティングゲームの題材としても最適な舞台。WWIIとSFものばかりが溢れているFPS市場において、食傷気味のゲーマーにもきっと新鮮に映るはず、という理由から製作を決定したと答えている。まず、プレイヤーに西部劇の雰囲気や孤高のガンマンを追体験してもらえる事を念頭に置いて開発は進められたようだ。

これを記している現在、UK版しか発売されていないが、欧州の方ではAvg70~80点と良い評価を得ている。 数少ない西部劇という題材に挑戦し、見事に雰囲気を再現している点は特に評価されているようだ。当初のTechlandの狙いは十分果たしていると言っていいだろう。 これから発売される西部劇の本場では、どの様に受け止められるのかが気になるところ。個人的には成功してもらいたいと強く願っている。


□交錯する二人の主人公。マルチサイトから追う熱いシナリオ

 左手に六連、右手に聖書。最強牧師の参上。

 トミーといい、インディアンにはシンジ君が多い。

養父と喧嘩し、家出していたビリー。いざ帰ってみると家は焼け、養父母は何者かに殺された後。その光景を目の当たりにし、呆然と立ち尽くしていると、養父の兄弟である牧師のレイが現場に駆けつけてきた。必死の形相を見て恐れたビリーは一目散に逃げ出す。ビリーを犯人だと断定したレイは彼を追い始めた―。

COJは追跡するレイと逃走するビリー、二人の視点を交互にザッピングしながら物語が語られるマルチサイト手法を採用し、単一シナリオにおける問題を解消しようと試みている。単一シナリオの弱点として、主人公一人の視点からしか描く事が出来ない為に展開が閉鎖的にならざるをえず、世界観に広がりを持たせるのが困難で、物語の背景を語りにくい面がある。特に一人称視点で終始進めていくFPSでは 、その傾向が強い。個人的にシナリオとはプレイヤーをゲーム世界に惹きつける重要な要素だと信じているが、どうもFPSというゲームは軽視したがり、自ら放棄している物が数多く見られるのが現状である。

COJはシナリオをお粗末に扱う、それらのFPSとは一線を画すと言っておこう。複数の視点から事象が連鎖していく過程を細かに追体験する事で、物語には深みが生まれ、キャラクターの魅力をうまく引き出している。こっちが絶体絶命の状況の最中、もう一人の主人公は裏ではこんな事をしていた!と、新たな側面を垣間見れるのは面白く、それによりゲームにも変化が生まれ、単調さも与えない。またシナリオの構成も秀逸で、張り巡らされた伏線が徐々に集約していき、すれ違っていた二人の主人公が真相へと近付いていく流れにはどんどん引き込まれてしまった。

過ちに気付いたレイの身を投げ捨てて一心に立ち向かう姿、逃げてばかりだったビリーがアイデンティティに芽生え始める姿。二人の主人公が本懐を遂げる為に立ち上がっていく展開に胸に熱いものが込み上げる。片方を蔑ろにせず、二人共に見せ場が用意されており、特に後半の展開はカッコイイの一言。マカロニ・ウエスタンの真髄が至るところに詰まっており、終始顔が綻びぱなしだった。FPSにストーリーを求めている人にとって、きっと満足できる内容に仕上がっている。是非、その目で確かめて頂きたい。
 

徐々に明らかになっていく真実。プレイヤーはついつい引き込まれていく。


□昇華しきれていない、煮え切らないゲーム内容

ゲームはガンマンのレイ、インディアンのビリー、二人の主人公をレベル毎に交互に切り替わって進行していく。レイは激しいガンファイトが楽しめるFPS、ビリーはアクションアドベンチャーの趣が強いスタイルである。それでは順に説明していこう。

□ レイ

 決闘。カウントゼロで高速ファニングが唸る!

屈強なガンマンのレイはリボルバー、ショットガン、ライフル、聖書を使い、敵を薙ぎ倒していく純粋なガンシューティングスタイル。リボルバー×リボルバー、リボルバー×ショットガン、リボルバー×聖書(笑)の二挺持ちが可能で、左右のクリックがそれぞれ左手・右手に装備した銃のトリガーとなっており、同時に連射する事が可能。
銃をホルスターにしまってから、左右同時クリックでコンセントレーションモードと呼ばれるバレットタイムを発動できる。二つの照準が集約するまでスローモーションとなり、割と狙い易いのでお世話になるだろう。うまく使えば5人相手を一瞬にして倒す離れ業やガトリングガン相手に立ち回る事も可能。

上記のシステムは確かにガンマン気分は味わう事はできるのだが、全体を見てシューティングとしては及第点の内容である。主役の武器であるリボルバーの照準が大き過ぎる点は特に気になった。本当に当たるのか懐疑的でランダム性が感じられ、爽快感を欠いている。回復アイテムが豊富に用意されており、敵はスクリプトで登場するアクション要素の強い展開なのだから、照準は小さめにした方が、ヘッドショットの快感を味わえたハズ。曖昧な照準のせいでゲーム中、常に煮え切らないものが残ってしまった。リボルバーの命中率をリアルに再現する為、あるいは他の武器との差別化を図る為という意図なら、主人公の状況に合わせて照準の大きさがリアルタイムに変化するシステムを取った方が自然だっただろう。銃声、敵のアニメーション、ブラッド表現はいずれもよく出来ている為、余計に残念に感じられた。後、二挺持ちでのリロードは煩わしく、銃撃戦のテンポを悪くさせている。

中ボスと戦う際のデュエリング(決闘シーン)。カウントゼロでマウスを上下に操作して、ホルスターから銃を引き、早撃ちを競うシステム。雰囲気は感じられるが、操作方法が分かるとまず負けない。何度かシーンは用意されているが、もう一押し足りないものがある。
騎乗しながらの追跡劇。馬で疾走するのは気持ち良く、時間制限から緊迫感が感じられるが地味な移動シーンが長い。騎乗での銃撃戦がもう少し欲しかったところだ。

ビリー

 崖登り。いつまで続くんですか。
スニークやパズル要素があるアクションアドベンチャースタイル。出来が悪い所が目立つ内容で、スニークはとにかくリニアな作りで一本道。Chrome Engineは広大な地形を描画できるにも関わらず、こういう所では全く活かされてはいない。また、木に引っ掛けて移動できる鞭も局所的な使い方で、他のゲームの様に他方から攻めるという事も一切出来ない。そんなにイジワルな作りではないのが救いだが、面白いかと問われればNO。やらされている感が強く、私個人としてはこういうのは嫌いである。

兎狩りと崖登り。ビリーがアイデンティティに芽生える大切なシーンなのだが、この内容も疑問符が浮かぶ。馬を駆りながら、広大な地形を弓矢で兎狩り。インディアンの洗礼なのかは知らないが、とにかくだだっ広く冗長。後の崖登りもダイナミックなイベントも無く、延々と登るばかりで退屈。しかもジャンプアクションを要求する場面が多く、何度も一撃死してしまいウンザリさせられた。雰囲気は良いのだが、ゲームとして面白いかどうかを誰も考えていなかったかと疑いたくなる。ビリーは最後の最後までチュートリアル的なオブジェクティブが続くので我慢して進めて頂きたい。

― 総じて
スタイルの異なる主人公を交互に操作する事で、常に新鮮な気持ちが保たれるし、着眼点は悪くない。雰囲気やシチュエーション作りは良いのだが、肝心の「ゲームとして面白いか」という面は褒められた出来ではない内容である。主人公を二人にした事で、面白さも単純に二倍にはならず、二分されてしまっている印象が強い。

牧師も怒れば手が出ます。 ジャンジャンバリバリ。気分はジャンゴ。

聖書を読みながら悪しき者を断つ。 騎乗戦もありますよ。パカラっ、パカラっ。

□西部劇を緻密に再現

上記で雰囲気、雰囲気と取り憑かれたように連呼してきた。とにかくグラフィックには力が入っている。人物の造形は丁寧に作られており、ワイルドウエストな雰囲気をバッチリ再現する事に成功している。また、ズーム時の被写界深度・舞い上がる砂煙・自然なライティングと影は臨場感を生み出し、西部劇ファンにはタマらない世界が広がっている。

SF FPS「Chrome」から、あまり芳しくない印象を抱いていたのだが、今回のCOJのアート面の出来にはとても驚かされた。技術が進化した未だを以ってしても、FPSのキャラクターはバケモノが目立つ中、COJのキャラには非常にセンスが感じられる。
西部劇は黙っていても「さま」になる男達が作り出す世界。正にそれを体言していると言っていい高水準なグラフィックであり、この点は満足している。

西部劇は良いよねー。

悪役は悪役らしく!


□西部劇ファンなら買い。特にマカロニファンは必携。それ以外は…

マルチシナリオから展開する男達のアツイシナリオは西部劇ファンなら思わずニヤリとしてしまう展開揃い。西部劇ファンが作った、西部劇ファンのためのゲームと言っても過言ではない。映画を見て、憧れのガンマン達に思いを馳せていた人にとっては、ようやくマトモなウエスタンFPSが登場したと言えるだろう。西部劇の雰囲気を存分に享受して頂きたい。

ただ、西部劇に興味の無い方には推しない。あくまでシナリオや雰囲気に重きを置いている為、ゲーム内容は微妙な点が目立つ。単純にシューティングゲームとして面白いか否かを問うのならばこの内容では厳しい。プレイする事によって、西部劇に興味を持って頂けると嬉しいのだが。まずはデモをプレイして欲しい。ゲーム内容は終始こういった感じが続く。

火薬MAXでやったれ、いったれ!

時にはみんなで襲撃。う、裏切ったな!

□Link
Call of Juarez
GamePressure.com
Fort Juarez

2007.3.16 記

FPS UnKnown